劇場公開日 2024年2月9日

「精神疾患と映画と現実社会」夜明けのすべて シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0精神疾患と映画と現実社会

2024年2月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

全く予備知識なしの鑑賞でしたが三宅唱監督がまたやってくれたなという印象で、素晴らしい作品でした。
原作をかなり脚色しているとの情報も聞こえてきますが、原作未読の私にとっては映画単体として非常に良作だと評価しています。
手法やテーマは前作の「ケイコ目を澄ませて」と近いと感じましたが、今回の主人公が抱えている症状はもっと一般的で観客の日常とも地続きで繋がりやすいものなので、もっと色んな感想が出て来ても良いと思ったのですが「ケイコ~」以上に絶賛評が多く感じました。

この作品を見た後日、たまたま『コット、はじまりの夏』『658Km、陽子の旅』という、それぞれの問題を抱えた主人公達がある場所(環境)で変化(成長)していくという共通したテーマの作品を見て、どれも素晴らしい作品でした。
でも、この様な作品を連続して鑑賞すると「人間って、こんなにもか弱き存在だったのか?」という疑問も湧いてきました。
殆どの人に当てはまりそうな多くの精神疾患が増え、それぞれに問題を抱えて生きているのは分かるのですが、こういう映画を見て感動するのが果たして良い社会なのか?、社会そのものが悪くなっているからこういう映画が増えるのか?複雑な気持ちにもなってしまいました。

そうした人達の問題解決に迫り、希望を持たせたり、少しでも改善する為の方法がそれぞれの作品で示されてはいましたが、例えば『夜明けの~』は“お仕事映画”でもある訳で、一つのモデルとしてあんな会社が示されていましたが、「いい会社だなぁ~」と思う反面「あんな会社ある訳ないよ」って気持ちにもさせられました。
会社という組織はどんなに小規模でも色々なタイプの人達の集まりであり、善悪の問題ではなくても日々個々の様々な感情が渦巻いていて、恐らく本作の様な会社の在り方は理想というよりも“奇跡”と呼べるほどの(私の人生の仕事体験からして)理想郷でもある訳です。
まあ映画なのだからそれで良いのですが、例えば私の今まで働いてきた組織の社是とか理念はやたら綺麗ごとが並び、お客様に対しての気配り心配りの指導の徹底は理解てきましたが、社内の人間関係に対してのそれは全くなく、所詮資本主義社会であり、営利目的第一であるので成績の悪い部署や人間に対しては馬鹿・クズ・死ねとかの暴言が飛び交うのは当たり前でした。
全員がそうでなくても、それを言う役割(それを言える神経)の人間が必ず一定数存在し、私が今まで経験した組織には必ず存在していました。
本作については素晴らしい作品だと思うし、こういう悪人が出ない作品って優しくて鑑賞後感も非常に気持ち良くて絶賛されるのは十分理解できますが、現実はもっと厳しいという引っかかりはどうしても残ってしまいました。なので、同じような問題で苦しんでいる人が見たらもっと別の意見が出て来る様な気もしました。
『コット~』もあの夫婦に預けられたのは、幸運という偶然と奇跡の結果でしょう。
そういう意味では『~陽子の旅』が映画としては見ていて一番厳しく辛かったですが、ひよっとしたら己を(病気を)改善させる一番現実的な方法だったのかも知れないとも少し思いました。
あと、この3作品共通点として、説明台詞やナレーションが一切ないので、観客が見て感じた事が全てとなる類の作品でもありましたので、多かれ少なかれ観客も同様の問題を抱えていると思うので、こういう映画を見ながら自分や他者との関係を見つめ直すきっかけになれば良いですね。

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シューテツ