劇場公開日 2023年3月17日

「怖すぎる……目を背けたいほど……」妖怪の孫 taroさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5怖すぎる……目を背けたいほど……

2023年4月11日
PCから投稿

前作「パンケーキを毒味する」は、まだ「やれやれ」と村上春樹風にため息をつく余裕があった。しかし、今作には、そんな余裕はない。それほど、安倍晋三が残した負の遺産は巨大で、上映中次々と重い絶望感が襲ってくる。

映画は「安倍首相はなぜ選挙に強かったのか?」「アベノミクスは実際どうなの?」といった、安倍政治の検証をしていく。その結果、安倍政治の〝見せ掛けだけで中身のない政策〟の数々が明らかにされ、後に残った、惨憺たる日本の経済・官僚組織・報道メディアの崩壊過程が見えてくる。それらは、安倍晋三という政治家が望んだ通りの結果なのである。

海外メディアの日本特派員の方は「権力者とメディアの社長が会食するなど、アメリカでは考えられない。そんなことをすればメディアの独立性を疑われ、読者や視聴者の信用を失う。日本のメディアは、権力を監視する役割を放棄し、権力に取り入る事に躍起になっている。外国にはもっと強権的にメディアに圧力を掛ける権力者がいるが、日本の場合は安倍政権程度の圧力でも簡単にメディアは黙ってしまう。」と語っていた。

これはメディアだけではないであろう。日本人の多くに、権力者と繋がりたい、仲間に入れてもらいたいというメンタリティがあるのではないだろうか。安倍政治は、日本人のそんなメンタリティに働き掛けてきたからこそ、成功したのではないだろうか。

しかし、その代償は大きかった。円安を誘導し、輸出(自動車)産業に利益を上げさせ、そのおこぼれ(トリクルダウン)を庶民に期待させたアベノミクスは、自動車メーカーに、技術革新をしなくとも利益を上げられる環境を作り、電気自動車技術で海外メーカーから取り残される事になる。その上、口を開けていてもトリクルダウンは落ち来ず、輸入に頼る多くの生活必需品は一斉に値上がりし、庶民は苦しむことになる。結局、金のある人、多額の献金をできる産業だけが儲かり、ほとんどの庶民は、その尻拭いをさせられる。しかも、尻拭いをさせられている庶民の多くは、「印象操作」(安倍氏のお気に入りワード)によって、自民党の支持を決してやめない。

これらが、この映画を観ている時に思い浮かんだことの一部だ。〈権力者を批判するよりも、権力者と仲よくなりたい〉このメンタリティを日本人が捨てられない限り、状況は変わらないと思う。映画の最後、監督は映画の文法を自ら壊している。そんな禁じ手を使ってまで伝えたかった思いがあり、危機感があったのだろう。──確かに受け取りました。その思いや危機感が多くの人に共有される事を願います。

taro