劇場公開日 2023年3月31日

「パンクであり続ける」GOLDFISH 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5パンクであり続ける

2023年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

1970年代後半のセックス・ピストルズやザ・クラッシュら英国発のパンク・ムーブメントが世界中に波及し、日本のパンクシーンにおける初期の代表的なバンドになった「アナーキー(亜無亜危異)」。同バンドのギタリストとして、またセッションプレーヤーとして活躍する藤沼伸一による映画監督デビュー作であり、アナーキーの歴史に緩やかに基づくバンドの半自伝的映画でもある。

アナーキーをモデルにしたバンド「ガンズ」が、長い活動休止期間を経て再結成に向けて動き出すところから映画は始まる。活動休止の引き金になったメンバーのハルの傷害事件というのも史実に基づいていて、1986年にアナーキーのギター担当・マリが元妻でPERSONZのボーカリストJILLを刺して重傷を負わせた(ちなみに映画公式サイトにJILLもコメントを寄せている)。

死の影が迫るハルを、27歳で死んだ大物ミュージシャンたちを指す「27クラブ」と同格で語るのは、さすがに持ち上げすぎというか、身びいきが過ぎるのではと思う。ロバート・ジョンソン、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーンらはいずれも、独創的なクリエイターや圧倒的なパフォーマーとして出身国のみなららず世界の音楽シーンにも多大な影響を与えたからこそ、その早すぎる死が衝撃的だった。そもそも本作のハルは、再結成に動き出す時点ですっかり中年になっているし。

本作の受け止め方は、かつてのパンクシーンを懐かしく思い出せるか、またパンクロックという音楽ジャンルが好きかどうかでずいぶん違ってくると思う。映画としての物足りなさもある。それでも、理論やテクニックに関係なく主張したいこと、伝えたいことを表現するという、パンクの精神が間違いなくこの「GOLDFISH」にも宿っている。藤沼伸一は映画監督になってもパンクであり続ける。

高森 郁哉