配信開始日 2023年11月17日

「清純派が汚れ役に」毒戦 BELIEVER 2 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0清純派が汚れ役に

2023年12月2日
PCから投稿

日本映画で暴力的なシーンを見ると無理してるなという感じを受ける。

ことはありませんか。

わたしたち日本人は平生、穏やかな日常をおくっている。映画のキャストやスタッフもそうであろう。
日々、誰かをぶん殴ったり、拷問したり、やにわに襲いかかったり、しない。されることもない。

過激な日常を生きている人もいるのかもしれないが多数派ではない。

ところがノワール系映画ではやることなすこと非情・過剰に描かれるため、どうしても無理がでる。

また日本には“暴力的であることの優越”というものがある。BREAKING DOWNみたいなもの──と考えるとわかりやすい。

日本にはポルノから出発した映画監督が多く、加虐というエレメントが切り離しがたく発達した結果、団鬼六とか、ヤクザに飼われている情婦とか、DV男に支配されているかわいそうな薄幸女とか、暴力とエロを提供するのが日本映画の基調路線になった。

その現象を端的に言うなら“ちんぴらを描く”ということであり誰がそれを見たいのかは解らないが日本映画というと輩が暴力をふるうという構成が定石となった。

そこへ加えて暴力性を身上としていると他者を威嚇できる──という業界の立脚点がある。

すなわち映画監督は暴力映画をつうじて「おれはこんなに暴力的なことが描けちゃう怖い人なんだぞ」と言いたい。
園子温は言うに及ばず、そもそも「暴力性がエンタメではなく監督の箔付けに使われているタイプ」となればほとんどの日本映画監督が入ってしまうのではなかろうか。

だからこそ、かれらは映画をつくっているというよりBREAKING DOWNに出ている──と考えるとわかりやすい、わけである。

一方で韓国映画の暴力的なシーンを見ても無理感がない。
無理感があるやつもあるが、たいていない。
韓国映画の暴力シーンには、何らかのリアリティや下地が感じられる。
うまく言いあらわせないが「大陸的な蛮の気配」が根底にある感じがする。

韓国ノワールの台頭にともなって、近年の日本映画はそのまねをしはじめた。というか韓国ノワール的な血を持った李相日のまねをしはじめた。悪人(2010)以降、シリアスな日本映画がみんな悪人のような空気を持っていることに気づきませんか。

しかし「大陸的な蛮の気配」をまねで表現することはムリだ。血に属することだと思う。
ふつうに考えてナ・ホンジンみたいな映画って日本人にはぜったい無理でしょ。

暴力を知らないなら暴力を表現しなくていい。
わたし/あなたがBREAKING DOWNに出演したいと言うならいざ知らず、生きるに際して暴力性を勝ち誇る必要はまったくない。
背伸びや盛りをしないで等身大のクリエイターになったほうがいいのでは──という話。

──

韓国映画の暴力は無理感がない──という前置きしておきながらナンだが(前作の)毒戦は無理感のある暴力性を特徴とした映画だった。いろいろと大げさ過ぎた。

悪の組織が過剰に盛られチャ・スンウォンやキム・ジュヒョクやチン・ソヨンらが演じたシーンは悪党というより魑魅魍魎だった。

もちろんそれが見どころでもあった。
とくにジュヒョクの突き抜けた邪悪っぷりと撮影後に急逝したことが毒戦を印象的な映画にしている。

しかるに毒戦のポイントとはリアリティを置いても、役者に無茶ぶりをすることであり、無理感が面白みへつながっていた。

元来ジュヒョクは「どこかで誰かに何かあれば間違いなく現れるホン班長」(2004)とか、温厚な顔立ちどおりの夫さんみたいな善人役で売ってきた人だ。

そういう人に真逆な役をあてるのが毒戦のスコアポイントなわけ。で、今作ではハン・ヒョジュが意外な役をやった。なんでヒョジュがこの役を?

(現在はもっと若い人に入れ替わっているかもしれないが)韓国内で花嫁にしたい女優ナンバーワンと言われたヒョジュを汚しまくって汚れ役を演じさせている。
正直、似合わなかったが、その無茶ぶりが毒戦のポイントと言われたらなるほどそういう見方もできる。

──

とはいえ毒戦は清純派に汚れ役をあてる映画ではなく、渋い中堅チョ・ジヌンが活躍する映画で、今回も暴れ回ってくれるが、率直に言って武闘派刑事の設定は陳套であり、結局映画はさらなる過激度で稼いだという印象だった。そもそも登場人物が入り乱れてどうなっているのかよくわからなかった。わら

そうはいっても韓国映画の暴力には無理感がない──ことは毒戦BELIEVER2でも感じ取れた。

話は雑だったが、暴力にともなう銃痕や刀創や火傷や腫れや油染み汗染み、肌や服の汚れや経年劣化、あるいは塩田の労働者、底辺で生きる者のいびつさ、そういう細部のリアリティが「暴力を描く」ことと同じ重要度なのがよくわかる。

格闘シーンだらけで苦労しているのが容易に想像できる映画だったが苦労のわりには感興しにくい映画だった。

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津次郎