劇場公開日 2023年4月28日

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「江戸青春グラフィティ」せかいのおきく KeithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0江戸青春グラフィティ

2023年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

あをによしの都・平城京が1240年前に廃都された理由の一つは、水の便が悪く排泄物処理に行き詰ったからと言われています。日本史の表に決して出て来ないけれど、ある意味で歴史を動かしてきた大きな要因でもある、日々の生活に必ずついて回る、深刻で、どこか滑稽な糞尿事情を経糸に、緯糸に江戸の若者たちの青春を紡いだ映画が本作です。

経糸の描写があまりにも鮮烈なだけに観客の目はそこに釘付けになってしまいます。一方でカットを細かく割らず、フィックスのカメラで引いたロングのカットで長回しを多用しているために、映画は実に緩いテンポで展開するので、総じて観客は寛いだ気分でスクリーンに入り込めます。
但し、肥溜めの糞尿の寄せアップの長回しには、やはり眉を顰めて閉口してしまい脳裏に残像として記憶されてしまったと思います。それゆえに本作はモノクロですが、モノクロに安心した観客を出し抜くかのように、各チャプターのラストカットのみカラー映像にし、一瞬の驚きと顰蹙をもたらし、ゆったりした映画のリズムに緊張感のアクセントを与えていました。

そして、物語はいつも雨天で起こり、観客を憂鬱な不安感へと煽った後、晴天で決着して晴れ晴れと安堵させるという循環を繰り返し、最終的に若者たち爽快感に包み込んで終えたように思います。
モノクロ仕立ては、主役のおきくを演じた黒木華の項の輝く白い美しさを、一層際立たせていましたし、ラスト近くの雪の長屋の場面では、清貧だが心豊かな美しさが映像から滲み出ていました。

それにしても、未だに用を足している際に、本作の糞尿カットが脳裏にフラッシュバックしてしまい、大いに難儀しています。

KeithKH