劇場公開日 2023年4月28日

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「モノクロームの美しさが際立つが、食事時との兼ね合いは考慮したい一作」せかいのおきく yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0モノクロームの美しさが際立つが、食事時との兼ね合いは考慮したい一作

2023年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映像を見て明らかなように、この作品は単にモノクロームであるだけでなく、品質調整が行き届いていて、その諧調の豊かさには驚かされます。

「汚穢屋」という主人公、矢亮(池松壮亮)たちに由来する”モノ”も大画面で映し出されるので、思わずのけぞってしまいますが、この、「審美眼的な美しさ」と「生物の宿命である排泄」を並置しているところに本作の大きな特徴があります。それにしても阪本監督の有機物に対するこだわりは執着的だけど(当初はモノクロームだから正視できたのに、カラーになった時には…)。

コンパクトな上映時間はさらに細かく章立てされていて、物語の構成はすっきりとまとめられています。その中で織りなされる、武士(佐藤浩市)の悲哀、矢亮と中次(寛一郎)の掛け合いなどのドラマは魅力的です。もっとも矢亮ときく(黒木華)の逸話は、全編通じて様々な形で立ち現れるものの、終盤の展開はやや性急な印象が残り、もう少し時間をかけてもこの二人の物語を見てみたい、と思ってしまいました。阪本監督が敢えて恋愛描写を控えめにして、ドライな作品作りを心がけたのかも知れませんが。

それにしても、本作のような観点から江戸時代末期の人々の生活を描いた作品はこれまで観たことがなく、どの場面も非常に興味深いものでした。「汚穢屋」という観点で見れば、庶民も武士も、身分の差も関係なく描くことができる、という視点を提示したこと、そして「肥」を通じて街と農村のつながりを描いた、という点も非常に評価したい作品でした。

yui