劇場公開日 2023年4月28日

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「この空の果て、どこだか知ってるか?果てなんかねえんだよ。それがせかいってやつだ。」せかいのおきく 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この空の果て、どこだか知ってるか?果てなんかねえんだよ。それがせかいってやつだ。

2023年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

味噌まみれの若者と声を失った武家の娘の青春物語。モノクロには情緒もあるが、むしろモノクロにした方がいい理由の方が優先されているような気がしないでもない。(当然、アレです。)まあ、ちゃんとやってますよ的なシーンもあるので、見ているこっちは偽物だと安心していると面食らうこともある。
そんなことよりも、この、山本周五郎のような世界に満ち溢れた、じわっと胸に沁み込むような物語の清らかさがたまらない。(しつこいようだけど、清らかな描写だけでは決してないが。) それもこれも黒木華の存在があってこそだ。落語「井戸の茶碗」に出てくる長屋住まいの浪人親娘のような、その品の良さと気高さと慎ましさとケジメを兼ね備えた、武家の娘の佇まい。そりゃ、二人だって身分違いを通り越して惚れるさ。
そしていい言葉もある。ヤンチャな面影なんかどこかに消えてしまった真木蔵人演じる住職が「おきくさんには役割ってのがある。役割っていうのは役を割るって書きましてね」という。そして、できないことはできる者がすればいい、と諭す。その言い方が、説教じみてなく、当然高圧的でもなく、しみじみと寄り添うように語りかける。いい場面だった。将来の望みを失いかけた娘にかける言葉として、ちょうどいい熱量と重さだった。
ああ、なんか観た後の気分が清々しいっていいな。

栗太郎