劇場公開日 2023年12月8日

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「映画=夢=人生の比喩はある種の救い」VORTEX ヴォルテックス 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画=夢=人生の比喩はある種の救い

2023年12月9日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

本作については当サイトの新作映画評論枠に寄稿したので、ここでは補足的なことを記しておきたい。

評論では字数の都合で触れられなかったが、本作はたびたび夢に言及している。ダリオ・アルジェントが演じる映画評論家は、映画と夢についての本を書いていると友人に明かす。執筆途中の原稿は「psyche(魂)」と題されている。エドガー・アラン・ポーの詩「夢の中の夢(A Dream Within A Dream)」を著書で引用したいと言う。映画館の雰囲気は夢を見るのに似ている、とも。闇があり、周りから切り離されて、ベッドと同じだと。「夢は短く、夢の中の夢はさらに短い」という言葉も語られる。

人の一生は夢のように、あるいは映画のように儚(はかな)いもの。その考え自体はさして独創的というわけではなく、これまでにも似たような言葉はたびたび語られてきたが、人生をそのようにとらえることは、決して避けられない死に向き合うときある種の救いになるのではないかと思う。

ラスト近く、主をなくしたアパートメントの家具や雑多な品々が徐々に処分されていく過程が、スライドのように静止画の連続で示される。人生の思い出が染みついた品々が減っていくたび、家も生気を失っていくように見える。そして、夫婦が暮らしたアパートの建物を見下ろすように上昇し回転しながら薄れていくラストショットは、昇天する魂の視点だろうか。ここでの回転もひとつの“渦”ととらえるなら、きれいさっぱり何もなくなって消えていく渦は、評論でも言及したバスルームに出現する「美しくない渦」と対(つい)になっているとも考えられる。老いや病によって衰えていく日々の悪夢のような濁流と、死によって苦しみや悲しみや重力からも解放され地上を離れていく無の状態と。ギャスパー・ノエ監督なりの、映画によって死を相対化する試みのようにも感じた。

高森 郁哉