劇場公開日 2023年4月22日

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「映画を更新する映画」独裁者たちのとき 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0映画を更新する映画

2023年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

冒頭に「これはAIを使っていない」とわざわざ出る。このご時世なので、予防線は貼っておくべきなのだろう。この作品は、実在した独裁者たちが画面に登場するが、それは過去のアーカイブ映像から取られたものだ。彼らが本物であることが重要な作品と言える。彼ら自身は本物だが、舞台となるのは幻想の地獄のような場所である。モノクロ映像で輪郭のはっきりしない映像を作っているので、古い映像から切り取られた登場人物たちも違和感なく画面に存在している。背景のテクスチャーと登場人物たちを見事に合わせていることで、この映像の真偽があやふやになっていく。
本作の原題は「Fairytale」である。本物のフッテージ映像を用いて、幻想のおとぎ話を作るとは大胆な発想だ。さすがはソクーロフだ。これは実写映画というべきか、アニメーションというべきか。カテゴライズを拒むような挑戦的な作品であり、映像制作の倫理の面でも色々な問題を投げかけている。独裁者だからこそ成り立っているというべきか、これを例えば昔のハリウッドスターを使ってやったらどうなるのかとか、色々と考えてしまう。AIを本作は使用していないが、AI時代に盛んに議論されることになりそうな要素がふんだんにある作品だ。

杉本穂高