劇場公開日 2023年9月1日

「心に苦い、観るべき良薬」福田村事件 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0心に苦い、観るべき良薬

2023年8月31日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

100年前の関東大震災直後、集団心理が暴走して“朝鮮人狩り”が行われ、間違われた中国人や日本人も多数虐殺された。日本人にとっての歴史的汚点、不都合な史実はなかなかドラマ作品の題材にならない邦画界(興行上の理由もあるだろう)において、森達也監督初の劇映画「福田村事件」は貴重で、快挙でもある。

脚本に名を連ねる3人のうち荒井晴彦と井上淳一は若松プロダクション出身で、彼らもまた福田村事件の企画を温めていたところ、森監督が同じ題材の映画化を目指していると知り合流したという。集団が異物を排除する心理が暴力に向かう描写は若松孝二監督作品に通じ、新聞社編集長と記者のエピソードを通じて権力・大衆・ジャーナリズムの関係性を問う視点は森監督のドキュメンタリー作品を思わせもする。

尺として40分、全体の3分の1を占めるという虐殺シーンは凄惨を極める。これが実際に日本で起きたことだと思うと心が締めつけられるが、良薬は口に苦し。ネットとSNSで日々標的がバッシングされ炎上している現代も100年前と同じ集団心理がはたらいていることを思えば、この苦い鑑賞体験が社会の薬になるという希望を持ちたい。

高森 郁哉
サジタリウスさんのコメント
2023年9月2日

新聞記者が何のために存在するのかの問題提起と「朝鮮人なら殺してもいいのか」がインパクトが強かったです

サジタリウス