「最新作にして原点回帰、共に生きるとは何なのか」劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最新作にして原点回帰、共に生きるとは何なのか

2023年11月19日
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鑑賞方法:映画館

最初に、ものすごく大切なこととして、今作は前回の「THE FIRST INSPECTOR」まできっちり観ている人がめちゃくちゃ満足するお話です。
点数が高いのもある意味当たり前。PSYCHO-PASSシリーズが大好きで、全作品網羅してる人しか基本的には観ない作品なんだから。
それを大前提として、原点回帰を盛り込み「シビュラシステムと人類の共生」が目指すもの、クリアすべき弱点、懸念、シビュラシステムのある世界で人類がとるべき態度とは何かを再確認する物語に仕上がっていたなと思う。

時系列が「THE FIRST INSPECTOR」の前、なので前回謎として残ったままの部分が観客視点ではクリアになっている(第3シーズンのキャラクター的には謎のままなんだが)、というところが面白い。
構造上前作未鑑賞でも話は通じるが、観ていた方が圧倒的に面白いと思う。帰ってからちょっと観返したしね。配信サービスが充実した今だから、この辺のハードルはかなり下がったなと思う。
一方で、我々シビュラシステムファンとしてはシステムの更なる成長戦略や、システムのフェーズ移行が描かれず、なんとも歯痒いですな。
シビュラが「人類との完全なる共生」を目指し、この無理難題にどう対応するのか。その戦略性がこのシリーズの一番の見どころ。

シビュラが目指す「共生」の具体的な目標は、まず自分の正体を受け入れてもらうための「存在の有用性」を確固たるものにすること。
次に自分の脅威となる組織あるいはシステムをパージし、保全性を高めること。
最後に日本だけでなく世界全土をシステムの統治下に置き、拡張性を高めること。
この3つの目標は個々に独立するのではなく、例えば世界にシステムが拡張することでよりユニークな脳を発見し取り込み、有用性を高める作用をもたらすように相互に利益のある行為である。

今作「PROVIDENCE」で再確認されたこととは、シビュラと人間、そのどちらもが互いを信じ、依存するのではなく「必要」としながらも自律するバランスの難しさなのだ。
「優秀な」システムに何もかも丸投げしたら、そりゃあメチャメチャ楽だろう。言われた通りに適正に沿って生きて、経済活動の歯車をこなしながら、恐ろしい程の不幸にも見舞われないかわりに、あらゆる可能性を自ら捨て去る。
だがそれは実はシビュラが望まないことでもあるのだ。あいつは人間を軽んじているように見えがちだが、根本的に人間の可能性を信じている。
シビュラが見ている理想は、常に人間の可能性の先にあり、人間が進化する限り己もまた進化しようとし続けることそのものだ。
ただ、進化や可能性への適応方法がちょっと乱暴な手段を伴っているだけで。

面白いもので、PSYCHO-PASSの公安部や外務省行動科の連中は、みんな「シビュラは必要だが個人の考えは曲げない」タイプ揃い。
そうでなくてはストーリーにならないから当たり前なのかもしれないが、シビュラ信者の霜月管理官ですら自分のワガママは絶対に通してくる。
その態度こそがシビュラが望むものだと、全人類が気づく時こそ、シビュラが求める理想のスタートラインになるだろう。

個人的には、シビュラに対してものすごい「胡散臭さ」を感じているし、自己決定権をシステムに委ねることに愚かさすら感じているが、一方で意外と人間的で清濁併せ呑む、懐の深いシビュラのことが大好きでもある。
PSYCHO-PASSは面白い。それはシビュラが面白いからだ。あいつの求める理想が実現する未来は、胡散臭いことこの上ないが、いつか見てみたいと思える未来でもある。

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つとみ