劇場公開日 2022年11月18日

「自然に善悪はない」ザリガニの鳴くところ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5自然に善悪はない

2022年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

自然と調和して生きる人の姿をミステリーとともに描いた秀作。自然の世界に善悪はない、ただ生きる知恵があるだけというセリフは象徴的だ。ミステリーということは殺人事件が起きるということだが、殺人という概念も、差別や偏見というものも、人間特有の善悪の基準なくしては生まれない。人生の大半を自然の摂理の中で生きてきた女性は、人間社会でいかに裁かれるのか、人間の法理と自然の摂理、両方を等価なものとして提示しているのが本作のユニークな点で、ヒューマニズムの外側に開かれている物語だ。
家父長的なものに抗うフェミニズムを描いた作品として理解するのもいい。だが、そういう家父長的なものもそれに対するフェミニズムも、所詮は人間の社会のものでしかない。生きる知恵があるだけの自然の摂理はそれよりも大きい。アメリカ映画でそういう感覚を描く作品は少ない。大変貴重な作品だと思う。

杉本穂高