劇場公開日 2023年2月10日

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「愛の形と承認欲求を知る」エゴイスト サスペンス西島さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0愛の形と承認欲求を知る

2024年1月24日
iPhoneアプリから投稿

2023年劇場鑑賞14本目 優秀作 72点

昨今邦画でトレンドでもある同性愛がテーマでありつつ差別化も測れている作品

今作は考察し甲斐があって、まずわかりやすいのだと”色”についてで、物語中盤まで随所で青色が使われていて、これは人生のマジックアワーであり、遅咲きの青春の暗示だと思われる。他にも赤色の車と赤のストライプのシャツのコーディネートは青の対照的な色でもあり、生命の赤、青春の終わり、転換期の暗示だと感じた。

物語中盤から終盤に特に全体的に黄色の入った服が多くなった印象で、これは黄色は太陽の色で、自己の放出を意味していて、また解放的や独立したいなども意味する。要は鈴木亮平の役柄を示していて職場やゲイ友達の前で己を解放的で、独りも長く自己管理ができ独立しているという意味だと捉えました

また、タイトルがエゴイストということで、認められたい、承認欲求が付き纏うのですが、これは何個か名シーンがあって、一つは葬式後母が息子に大事な人と聞いた事を言うシーンで、亮平も氷魚も同じように”ごめん”を繰り返すだけで、お互い実母に孫を見せてあげるこ様な親孝行の仕方ができなく、不甲斐なくどうしようもない気持ちを描いていたり。

月20万(10万という諸説もあり)で雇い始め、定職に就いた氷魚が母にやっと言える様な仕事に就いたよと言えたことが、安心させたい、認められたい、愛情を受けたいにつながる
幼くして父無しで母と二人三脚で生きてきたので十分な愛を受けて育っていない、”母の為に”の善意で動く氷魚のエゴだが動機の中心は承認欲求だなと。

亮平の父が過去に実母に出て行かれた事があると告白、氷魚父とは違い家事等する様になるが先立つ、亮平の父も更生したもののやるせない日々が続き亮平と手分けして家事をする様になる、母なしで自立した息子が結婚し孫を残す事で亡き母に対して親孝行を計る、こんな息子を手掛けた父が亡き母に”認められたい”につながると考察。

主演の鈴木亮平についても考察してみると、一見器用で会話上手そうですが、本当は不器用で、自我を押し潰している役柄。

”聞く会話”と”話す会話”それぞれアプローチの仕方や段取りの踏み方は上手。思春期から学生、20代半ばくらいまで心をすり減らしながら苦労して生きてきたのがわかる。

これについて一番象徴的であり印象的なシーンが物語終盤の病院の鏡越しに眉毛を描くのが表している。やっぱり僕はこっち側なんだ、与えたものに対して自分が欲しい対価は得られないことを痛感。最後のシーンで氷魚母から”まだ行かないで”と止められ”母”を感じるのと同時に与えていた側から必要とされる側になり”一縷の光”が差し込んだこの上なく妥当な終わり方であった。

総評としては、
・当作品は”与えたい”や”認められたい”が蠢く作品
・物語で重要視されていないが、氷魚の死因は過労死か自殺
・過労死の場合はお金も工面してもらったり、自立している亮平にコンプレックスを抱き、自身の人生を通してやるせなさからきたか
・どちらの死因でも直前のシーンで退勤直後エプロンを取り、頭を下げて何かを抱えて進んでいるシーンが入っているから心に決めている気もする
・鈴木亮平は分かり易くこれからも仕事に生きる人間で、その都度独りを感じながらも近い将来父のために生きる様になると考察
・宮沢氷魚はもう少し自分を生きるべき。苦労して育ったにしろせめて学生が終わったら親からの愛で生きるのは苦しい
・氷魚母は旦那に不倫の愚痴を亮平に垂れ込んでいたが、被害者ズラが目立つ。結婚相手を見定める目を持っていなかった自分にも落ち度があるし、不倫される様な間柄や夫婦の充実感、随所に人間としての甘さや弱さが目立つ

こんな感じだろうか

珍しく長文で考察してきたが、だから言って個人的評価が比例してすごく高いかと言われたらそうでないから、映画って芸術って面白い

是非

サスペンス西島