劇場公開日 2024年1月26日

「アイヌをもっと知りたくなる」カムイのうた おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5アイヌをもっと知りたくなる

2024年1月29日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

予告の切ない雰囲気に惹かれ、アイヌ民族への興味もあって公開2日目に鑑賞してきました。実は公開日には、舞台挨拶付き上映があったのですが、職場の都合で行けなくて本当に残念!監督のお話を聞きたかったです。

ストーリーは、大正期の北海道の学校で、理不尽な差別といじめに遭っていたアイヌの娘・北里テルが、アイヌ語研究の第一人者である東京の兼田教授と出会い、彼の強い勧めでアイヌの叙事詩ユーカラを文字に起こすことになり、その日本語訳に生涯を捧げる姿を描くというもの。

本作は、ユーカラを日本語訳した実在の人物・知里幸恵さんの人生を描いたものであることを鑑賞後に知りました。ユーカラというものも、恥ずかしながら本作で初めて知りました。その日本語訳作業がいまだに続けられていることから、その量の膨大さも推し量られ、長いものは何日もかけて語られるそうですが、文字をもたないアイヌがそれを口頭で伝承してきたことは驚愕です。

また、アイヌの人々が蔑まれ迫害を受け、いわれのない理不尽な扱いに辛酸をなめ続けてきたことの一端を垣間見ることができました。土地も言葉も奪われ、学校では差別といじめ、街では好奇と侮蔑の目に晒され、先祖の墓も荒らされ、人としての尊厳さえ奪われていたことに大きな憤りを感じます。それでもなお生きて、誇りを取り戻そうともがく姿が本当に切ないです。

そんなアイヌの人々に寄り添い、アイヌの誇りを力強く訴え、奪われた遺骨を力づくで取り戻す兼田教授の姿が熱いです。後で調べたら、これは金田一京助先生がモデルのようで、言葉に対する並々ならぬ思い入れに合点がいきました。

他にも、北海道の雄大さと自然の厳しさを感じられる美しい映像もよかったです。懐かしのロビンちゃんこと島田歌穂さんが情感豊かに謡いあげるユーカラも圧巻でした。先日の「ゴールデンカムイ」に続き、ますます北海道に行きたくなりました。

ただ、知里幸恵さんの功績を讃えるという点では意義があり、とても勉強になる作品ではありますが、感動に涙するという場面はあまりなかったです。これは勝手な推測ですが、実際にはもっと酷い差別や迫害があり、アイヌの怒りや悲しみや苦しみはこんなものではなかったのではないかと思います。そうであるならば、それをもっと生々しく描き、この事実が歴史に埋もれることのないように、私のような無知な人間に強く訴えかけてほしかったです。

主演は吉田美月喜さんで、目に力のある演技が印象的です。脇を固めるのは、望月歩くん、島田歌穂さん、清水美砂さん、加藤雅也さん、天宮良さんら。中でも、加藤雅也さんの熱い思いが伝わる演技が素敵です。

おじゃる