劇場公開日 2022年8月5日

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「映画的魔術で乗り切った物語」プアン 友だちと呼ばせて andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画的魔術で乗り切った物語

2022年8月15日
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鑑賞方法:映画館

「バッド・ジーニアス」がとても良かったので今回も鑑賞。ウォン・カーウァイがプロデュースだというのは直前に知る。最近全然情報を収集できていない…。
当然予告編も一切見ていない。完全に「バッド・ジーニアスの監督の作品」というだけで観た感想。
正直、粗筋だけひととおり喋ってしまうとえらく陳腐な物語ではある。余命僅かな友人、元恋人(たち)への思い出返却の旅、所謂よくあるロードムービーがA面である。ただし、皆が苦い記憶を甘い思い出に変換してくれるわけでもなく、その辺も陳腐といえば陳腐ではある。
後半でその筋の裏をなぞるように(だからB面なのか)、物語の核心が語られる。
主人公ふたりには特段共感できるところがなかった(!)。ふたりとも複雑なものを持っているはずなのに、その辺の描写を雰囲気で乗り切っているところが…。
…と観た後ならいくらでも細かい部分をごねられるのだが、「お父さんのラジオの録音が息子へのメッセージとして機能している」のがぐっときてしまった。本筋じゃないにしても要所要所でぐっとこさせるのがよい。
あと、観ていると、お互い複雑な感情はあるけれど、主人公2人の間には、確かに友情があったように思えるのだ。友情の育まれる過程をほぼ捨象しても描ける自信があったのだろう、と思う。
理屈ではない何かが映画の物語の中にあって、振り返ればとても陳腐な「お話」な気がするけれど、映画の中に入り込んでいる間はその物語を信じられる。これこそが映画というものの魔術的な部分、と感じた。
そういう意味では描写は足りないが映画的魔術で乗り切った物語、なのだろう。
演出はおしゃれというよりは…古き良き?というか、アングルなどはハッとさせられる部分もあるのだが、全体的に新しさは感じなかった。雰囲気で場を保たせているというか…、いや、まあ、もっとどろっとざらざらとしたら全然違う映画になっちゃうとは思うのだが。雰囲気第一だから…。

andhyphen