劇場公開日 2022年7月29日

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「「人権」のお題で作られた不思議系青春ドラマ。これが商業デビュー作のイ・オクソプ監督はKY、それとも天才?」なまず 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「人権」のお題で作られた不思議系青春ドラマ。これが商業デビュー作のイ・オクソプ監督はKY、それとも天才?

2022年7月31日
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鑑賞方法:試写会

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とある病院を舞台に、レントゲン室での恋人との行為が写ったX線写真を流出させたとおぼしき放射線技師、無職の恋人ソンウォンと同棲している看護師ユニョン、病院長の娘で人間不信のイ副院長とゆるやかに視点が移るが、穏やかな女声のナレーション(のちに病室の水槽で飼われているなまずの心の声だと判明)による情報も相まって、ほどなくユニョンとソンウォンを中心とする物語だとわかってくる。大病院からユニョンとイ副院長を除き人が消えてしまったり、韓国各地の地表に巨大な陥没穴=シンクホールが発生したりといった不条理な事象をはさみつつも、登場人物らが身近な人を疑うことで派生する出来事や、問題に直面しながらも各自のやり方で対処しようとする姿が描かれ、オフビートとまではいかないがちょっと変わったリズムと、遊び心とブラックな面が絶妙にブレンドされたストーリーに引き込まれてしまう。

鑑賞後にプレス資料を読んで驚いたのだが、2010年代にいくつかの短編映画で注目されていたイ・オクソプ監督が、韓国の国家人権委員会から、人権に関する「重みと軽快さを併せ持つ映画」「青年(若者)」というお題で製作を依頼されたというのだ。言われてみれば確かに、人を疑うことから生じる苦悩や、仕事に就けないつらさ、恋人への暴力など、人権と結び付けて考えられなくもない要素がちりばめられてはいる。もし日本の監督が同じようなお題を与えられたら、真面目に受け止めてもっとシリアスな内容か、啓発効果が見込めるわかりやすい教訓を含む映画を作りそうな気がするが、イ・オクソプは空気を読まないのか、それとも常人離れした発想力を持つ天才なのか。

余談だが、ユニョン役のイ・ジュヨン、主演作「野球少女」を鑑賞した際は感じなかったのだが、本作ではあいみょんに顔が似ているとずっと思いながら観ていた。ググってみると、やはり「イ・ジュヨンとあいみょんは似ている説」を提唱している人はある程度いるようだ。

高森 郁哉