劇場公開日 2023年2月23日

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「こんな作品…初めて観ました」逆転のトライアングル talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0こんな作品…初めて観ました

2023年12月8日
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鑑賞方法:DVD/BD

<映画のことば>
あなたの島での行動力にマジ感心しているの。女のリーダーが誕生するなんて。大富豪を飼い慣らした。めちゃ格好いい。

例えば、デート代はどちらが払うべきか。彼・彼女のちょっとした仕草が、どうしても気に入らない。
セレブと言っても、必ずしも名家の出とは限らず、一代成金にはありがちなな振る舞いのオンパレード。
迎える接客スタッフにしても、チップ以外に関心なし。
果ては、動力船にも帆があると確信している(自分は正しいと思い込んで譲らず、スタッフ=船長を見下す)セレブ客等々。
お上品ぶっている彼・彼女らも、海が時化(しけ)て船が揺れると、トイレに駆け込むでもなく、ところ構わず、その場で嘔吐の嵐―。

日常の生活で起こる人間模様を、真正面から事細かに取り上げて、こんなにも映像化・ストーリー化した作品って…評論子には寡聞にして、本作の他に思い当たりません。
ネットの評では「人間に対する鋭い観察眼とブラックユーモアにあふれた作品で高い評価を受けてきた」と評されているリューベン・オストルンド監督は、その手になる作品は初めての鑑賞でしたが、こんな作風の作品を撮る方なのでしょうか。

登場人物の細かい所作から、その心の動き(考え)を紐解いてゆかなければならないのは、どうかすると映画はざっくりと観てしまい、周囲に「えっ、そんなシーンもあったっけ?」とピントを外してしまいがちな評論子には、少しばかり辛いものがありましたけれども。

内容的には、第3部が、もちろん圧巻!
「進化論」を著(あらわ)した著名な自然科学者・ダーウィンのものとされる次の言葉が脳裏に浮かびました。評論子には。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一、生き残るのは、変化できる者である。」

それなりの教育を受け、それゆえに、それなりの知性と教養とを身に付けていたであろう(?)豪華クルーズ船の乗客だった紳士・淑女を差し置いて、最後の局面では、アビゲイル(作品の前半ではトイレの掃除を怠らないよう、廊下越しにきつく言い渡されるシーンがあるだけで、映像には姿すらまったく現さない)か、彼・彼女らに対してリーダーシップを執ることができたのは、彼女が、当該の局面に応じて変化する(いち早く考え方を切り換えて行動する)ことができたから、ということなのでしょう。
長らく「下積み」に耐えてくることで、彼女には逞(たくま)しい生活力が身についていたということなのだと思います。
その生活力にモノを言わせて、平時においては、絶対に揺らぐことのないトライアングル(社会のヒエラルキー)を、いともあっさりと「逆転」する…。その鮮やかさに目を見張ります。
その意味で、邦題は「いい得て妙」だと思った次第です。評論子は。

賤吏の身に甘んじていても、人生においては、こんなふうな「変化できる者」としてありたいものです。評論子も。

他に類例の少ない奇抜な作風の一本として、佳作の評価に値するものと思います。

(追記)
評論子が参加している映画サークルの「映画を語る会」でお題作品として取り上げられていた一本でした。
今は地方暮らしをしている評論子には劇場公開時に観ることができず、当時は「聴講生」として悔しさを抑えながら、話し合いを聞いていたものでした。DVD化がなり、ようやく観ることのできた作品でした。
話題に取り上げられていなければ、おそらくは観ていなかっただろうと思います。
教えられて佳作に当たる―。
映画を観ることの楽しさは、そんなところにもあるように思います。評論子は。

talkie