劇場公開日 2023年10月14日

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「現代グローバル社会の不寛容さ」ヨーロッパ新世紀 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5現代グローバル社会の不寛容さ

2023年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

直接的には移民に対する差別、格差の問題など、多くの国で抱える社会問題を描いた作品と言えるが、もっと広く人間は根本的に不寛容さを抱えた存在ではないかと問いかけている。
主幹産業だった炭鉱の閉鎖以来、貧しい状況から抜け出せない村。新しくできたパン工場に補助金目当てで外国人労働者を雇い入れると差別が発生していく。外国人労働者の受け入れが経済的には村の助けになるわけで、合理的に考えれば村の人々にとっても良いことなはず。しかし、人々は経済合理性だけで物事を判断しない。
そうした外国人労働者の追放を訴える集会が教会で開かれる。教会でそんな話し合いをすることに、なんとも言えない気分になる。心の拠り所としての宗教は、時に排他的になる理屈としても機能してしまう。
排他的な村であることは確かだが、それをすべて断罪して終わりにしない作品でもある。よそからやってきたフランスのNGO職員の言葉は正しいが空虚である。複雑なグローバル社会がきしんでいる、機能不全であるとこの映画は描いている。

杉本穂高