「男には遠すぎる映画」ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0男には遠すぎる映画

2023年4月11日
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思えば1日目の夜に「僕が女だったら好きでもない男とは絶対に寝ない」と嘯く息子に向かって「でもあなたは女じゃない」とジャンヌが言い放ったあの瞬間に、俺はこの映画から放逐されたのだと思う。これはお前の映画じゃないし、ジャンヌはお前のものじゃない、という非難にも似た宣言が第四の壁を突き破って俺を貫いた。俺は体も心も紛うことなく男だ。

本作は他人事として傍観するにはあまりにも冗長で緩慢だ。ヒーターを点ける、ジャガイモの皮を剥く、ポストを確認する。ひたすら反復されるそれらの動作を眺めているうちに思わず欠伸が出る。姿勢を変えたくなる。睡魔が襲ってくる。

しかしこのうんざりするような冗長さ、緩慢さこそが現代女性に理由もなく科せられている十字架であることを踏まえれば、睡魔の誘いに応えることはそうした問題に無関心を決め込むことと同義だ。我々男たちは、どうあがいても「同化」することが不可能なジャンヌのひたすら平板な日常の所作を、睡魔と良心の間を絶えず彷徨しながら追い続けるしかない。

ハッキリ言ってマジでしんどい200分だった。わかるよわかる、その気持ち、などと安っぽい同情を寄せる隙は微塵も用意されていない。俺たちは徹頭徹尾傍観することしか許されていない。それは我々男があらゆる場面において女を当事者から傍観者へと放逐し続けてきたことに対する、監督の痛烈な意趣返しなのだと思う。

普段であれば「ここのショットが~」とか「ゴダールの影響が~」とかシネフィル的な感想の一つや二つを並べ立ててみたくなるところだが、本作に関してはこれ以上の言及は避けようと思う。この映画はあまりにも俺から遠いし、その遠さを埋められるだけの誠実さは今の俺にない。

因果