「じっくり見せてもらったからこそ、印象に残る作品。」ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地 M.Joeさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5じっくり見せてもらったからこそ、印象に残る作品。

2022年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

200分(3時20分)という長く、ある意味単調な映画であったが、居眠りすることなく不思議と見入ってしまった。最近、何でも早口だったりカット数や登場人物が多かったりと、何かと気忙しい映画やTVが多いが、この映画はそれとは真逆である。1975年(昭和50年)制作だからできたのか。その当時でも画期的だったのか。
 しかし、それだからこそ、いろいろなところに目が行く。いちいち動きを観察してしまう。セリフもほんどなく、限られたシーンのみ。しかし、それが重要な意味を持っている。不必要なセリフなどないといっていいだろう。余計な音楽の演出もない。

 息子と暮らす主婦の家庭での日常生活を固定カメラで延々と映し出す。時たま外出することはあるが、用事で出掛けているだけであり、人との交わりは殆どない。基本的に台所、ダイニング・居間・息子の寝室、風呂場、主人公の寝室での主人公のありのままの姿を映し出す。バスルームでの体の洗い方、バスタブの洗浄、食器洗いなども別に取り立てることはないが、見てしまう。
 部屋の出入りの際、必ずライトのスイッチをOn/offする。何度も繰り返されるこの照明の明・暗は、小津安二郎を思わせる部屋から部屋への動きと相まって私は好きである。この女性の几帳面さは、身だしなみの良さ、キチンとしたベッドメイキング、息子の靴磨き、料理の手際などでも表されている。ただ、息抜きらしいものは編み物ぐらいで、感情を抑えていたのかもしれない。
 3日間だけの記録であるが、日ごと家に来る別々の男性。カナダに住む妹からの手紙と贈り物、息子の父親への思いなどが、サラリと出てくる。そして最後のシーンへ。後から思えばそれまで延々と続いてきた日常の最後の3日間なのかもしれない。

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M.Joe