劇場公開日 2022年5月6日

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「迫力ある映像と緊張感の続く映画。ウクライナとロシアの関係に思いを巡らせながら見るべき映画。」チェルノブイリ1986 M.Joeさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0迫力ある映像と緊張感の続く映画。ウクライナとロシアの関係に思いを巡らせながら見るべき映画。

2022年8月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ロシアがウクライナへの攻撃を続ける中での映画とあって見に行った。平日の昼間でもある程度の観客がいた。
原子力発電所の爆発に対する消防団員や医師、看護師、科学者などの懸命な努力でこれに立ち向かった様子がとてもドラマティックに描かれている。もう一つの軸は消防隊の男性とそのかつての恋人と10歳の息子。
これはチェルノブイリ原発事故を基にしているが、創作(フィクション)の物語である。そのようなことが冒頭に流れていたと思う。
見終わって、純粋に原発が存在すること自体の恐ろしさを感じた。ただ、国や原発の委員会のような公的な国の機関がバックアップしているというクレジットを見て、いわゆる検閲があっての映画製作・公開であり、国にとってのまずいことは描かれていないのだろうというぐらいは感じた。
しかし、一緒に見ていた知人は、まったく違った視点で説明してくれた。これは、国のプロパガンダなのだと。2020年制作の映画ではあるが、2014年のクリミア併合から続いているロシアとウクライナの関係が背景にある。映画で主要なシーンである原発事故の拡大を防ぐための排水処理、スイスにあるという先進的放射線治療機関などは聞いたことがなく創作ではないかと思うが、この映画の目的は大きく2つあると言う。
一つは、消防士、医療、技術者、科学者、軍など多くの勇敢で優秀なロシア人を称えること。ロシア人はいかなる困難に対して乗り越えることができるのだと。
そして、もう一つはウクライナとの緊張関係のもと、もし戦いとなればウクライナ内の原発を攻撃し大惨事を引き起こせばウクライナに大打撃を与えることができるのだと。実際にロシア軍は今回の戦争でも早い段階で原発施設を管理下に置いた。このような「脅し」を世界に発信した映画で、ロシア内でも人気を博している映画だという。
映画のHPには、現在の戦争状態の中での上映の是非は問われるところであるが、「監督・主演のダニーラ・コズロフスキーは、自身のインスタグラムで明確に戦争反対を表明しています。」とあり、公開をしたとあった。
一方、知人はいろいろと調べた上での見解を語ってくれ、ロシア大統領の独裁的な考え方の恐ろしさを指摘した。日本にとっても脅威であると。
映画自体135分の長編ではあるが、ストーリー展開や映像の迫力などグイグイ観客を引き付けるとても印象深い映画であった。
戦争状態にあり、原発を多く抱えるウクライナにとってこの映画がどういう意味を持つのか、多くの人に見てほしい映画である。1週間限定上映であったのが残念であるが、一方アメリカ軍の力を見せつける「トップガン」は超ロングランというのは、もう一方の側のプロパガンダとも言えるのかもしれない。

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M.Joe