劇場公開日 2022年5月6日

  • 予告編を見る

「主人公がクズ野郎というのが意外。行き当たりばったりの対応しかやらない当時の政府の愚策を鋭く糾弾する骨太なドラマ」チェルノブイリ1986 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0主人公がクズ野郎というのが意外。行き当たりばったりの対応しかやらない当時の政府の愚策を鋭く糾弾する骨太なドラマ

2022年6月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

1986年のチェルノブイリ爆発事故の実録ドラマではなく、実話に着想を得たフィクション。となれば普通泣かせるドラマに仕上げてきそうなものですが、主人公の消防士アレクセイが物凄く自分勝手で観客の感情移入を全力で阻止します。突然恋人オリガをほったらかしにして失踪、10年後に偶然出会ったかと思えば強引にデートに連れ出し復縁を迫り、その10年間のオリガの人生がどうなったのかを一瞬で悟るも謝るわけでもない一方通行の傍若無人にそれが当時のソ連ではデフォルトだったのかと呆気にとられます。さらに酷いことにアレクセイは大規模な水蒸気爆発を阻止する作戦に参加することを頑なに拒否して観客をイラつかせます。その作戦の決死隊に参加するメンバーはほぼ全員特別報酬目当ての愚連隊。ソ連にはアガペーという概念はないのかと呆然としますが、これって当時の共産主義が結局嘘っぱちだったことを暗に示しているのだと好意的に解釈すると、この後に繰り返される試練が壮絶なクズ男に課せられた通過儀礼に見えてきて、そりゃそうだろという結末にソフトランディングしますがその後に延々と続く余韻はこの事故から36年も経っているのに世界が何も変わっていないという惨憺たる現実を炙り出します。こんな題材をメロドラマにせず当時の政府の愚策を糾弾することに注力した点は鮮烈でした。

監督・主演はダニーラ・コズロフスキー。どっかで見た顔だなと気になっていましたが、イリヤ・ナイシュラー監督のバイオレントSFアクション『ハードコア』で卑劣極まりない悪党エイカンを演じていた人。目つきだけで全く異なるキャラクターを演じ分ける才能に舌を巻きました。

よね