劇場公開日 2022年3月4日

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「これで良い」永遠の1分。 ちゃんけぃさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5これで良い

2022年3月13日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

感動しました。

コメディでは無いです。
コメディを撮ろうとする映画でもない、「悲劇の真ん中でも笑顔になろうとした人達やその瞬間があったはずだと願い、それが許されないわけがないと願う作品」を創り上げるヒューマンドラマだと感じました。

災禍の内側では目が覚めてから眠りに落ちるまで全ての瞬間を悲しみ苦しんでいなければいけないのか、災禍の外側では当事者の状況や想いを「悲痛で重く暗いもの」としてしか捉えることも慮ることも描き語り伝えることも許されないのか、それは誰が決め、誰に正解や不正解の答えを出す権利があると言うのか…
しかし特にこの国では当事者から離れれば離れるほど勝手に「こうあるべきだ」と決めつけ、気遣いの顔で無関心を誤魔化し、逆に踏み込んでいく人を無遠慮で不謹慎だと抑えつけようとする社会気質がある気します。
そこに染まっていない外国人なら凝り固まった道徳観念にトライできるかもしれない…主人公をアメリカから来た監督にしたのはそういう事ではないかと思います。
ただし、決して無粋に土足で踏み荒らしていく不快な描写があるわけではなく、むしろ彼が取材をしていくシーンからは私達の喉元を過ぎてしまったものを改めて思い出させてくれる部分がしっかりとあり、多くを考えさせられもしました。

構成は上田さんの流石の才能を感じました。
主人公はハッキリしていながら若干の群像劇でもあり、そしてスポットライトは二本あります。
飛び込んでいく者と離れていく者、隔たりを越えて届こうとする想い、それを繋ぐ少しの奇跡… “仕掛け”には彼らしいなと感じつつも、題材を慮って過剰に弄びはしなかったという個人的印象です。
それと、作中で歌われる曲が素晴らしかったです。歌詞、メロディー、歌声、もちろん音楽の好みは十人十色ですが私はとても胸を打たれました。

それにしても惜しむらくは、公開する映画館があまりにも少なく一日の上映本数も少なく、パンフレットまで作られていない様子であることでしょうか。
映画内で描かれた障害が映画外で現れてしまったかのような、物創りの勇気をリスク回避の企業性が上回ってしまったかのように思えるのは邪推かどうか…
でもそれも覚悟して制作スタッフは臨んだのかもしれませんし、なればこそこの作品はこれで良かったのだろうとより賛辞を送りたく思います。

一緒に観劇した私の妻は被災者遺族です。
当時被災者だからと「可哀想な人」と断じられるのは複雑だったそうです。
この映画を観て良かったと、少なくとも彼女は言いました。
願わくばもっと多くの人に届いてほしい、そんな映画でした。

ちゃんけぃ