劇場公開日 2022年1月21日

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「既に誰かがやっている気がする」シルクロード.com 史上最大の闇サイト 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5既に誰かがやっている気がする

2022年1月30日
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鑑賞方法:映画館

 予想と少し違った。サイバー犯罪にサイバー対策のスペシャリストが立ち向かっているところに、ひとり場違いな引退間際のおっさん刑事が参加して、聞き込みと防犯カメラの捜査で成果を上げるのかと思っていた。
 しかしさすがにそれではサイバー犯罪を突き止められない。ボーデン刑事はキーボード入力も覚束ないPCスキルだが、人を脅したり賺したりすることには手練である。サイバー犯罪も、人間がやっている分には、ボーデン刑事のやり方でなんとかなる筈だ。もし主犯が学習したAIであったら、ボーデン刑事には手も足も出なかっただろう。

 インターネットの匿名性は、自由な意見表明を可能にする一方で、無責任な人格攻撃や誹謗中傷も可能にしてしまう。そして様々な犯罪も、同時に可能にした。本作品で扱った事件はその典型的なひとつだと思う。
 それにしても見事な犯罪である。マリファナが合法の州もある。もう少し上手くやれば、重い犯罪にはならなかったかもしれないし、場合によっては犯罪にさえならなかったかもしれない。
 しかしそこは人間だ。家族をはじめ、人間関係からは免れないし、欲もあれば恐怖心もある。ミスを犯すのは必然である。

 ウルブリヒトを演じたニック・ロビンソンは上手い。天才的な犯罪者としての自負と、違法行為をした人間の怯えとの間で顫えている心理がよく伝わってきた。
 ボーデン刑事を演じたジェイソン・クラークは身体が大きくて押し出しが効く。今回の強引なおっさん刑事にぴったりだ。こちらには自負もなければ怯えもない。ウルブリヒトとの差は覚悟の違いだった。

 プラットフォームを運営するには手間と費用がかかるが、それをAIに任せてしまえば、運営者は追及されづらい。支払いを仮想通貨で行なえば足が付かないかもしれない。先ずは合法のサイトでAIに学習させて、非合法のサイトで使えるアルゴリズムを開発する。既に誰かがやっている気がする。

耶馬英彦