劇場公開日 2021年12月10日

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「確かにそこにあったもの。」軍艦少年 はるたろうさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5確かにそこにあったもの。

2021年12月17日
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鑑賞方法:映画館

大切な故郷。大切な人。失った者だけが知る喪失感。それでも生きていかなければならない葛藤。絶望から立ち上がる父と息子、再生の物語。

分かりやすくて、青臭くて、グッときて、清々しい。私はめちゃめちゃ良かったです。喧嘩は強いが決して不良ではない幽霊美術部員の海星。母の死後酒浸りで自暴自棄になる父を見ていられず道を外れそうになるが彼の本質は結局何も変わらない。半グレグループや人相の悪い不動産屋に目を付けられながらも、大切なものを守る為にいつも闘っている。それは父親譲りの強さであり、優しさでもある。

キャストもとても良かった。海星は劇団EXILEの方ですか。どうりで身軽な訳だ。真っ直ぐな瞳がステキでした。赤井英和は絶対関西弁の方がしっくりきたと思うけど、大人の取引にはしびれました。

そして何より海星の両親の故郷、世界遺産端島。通称軍艦島の圧倒的な存在感と美しさ。最盛期には世界一の人口密度と言われた炭鉱の島も今や所狭しと立ち並んだ建造物が廃墟と化し朽ち果てるのを静かに待っている。実は4年前に上陸クルーズに参加したことがある。誰もいない建物の暗闇に吸い込まれてしまいそうな不思議な空気感が漂っていたのを覚えている。宿主が去ってから半世紀近くたった今もなお、そこに暮らした人々の息吹が確かに息づいていた。

はるたろう