劇場公開日 2021年11月5日

  • 予告編を見る

「ダークで残酷な中にもある、星に願いを」ほんとうのピノッキオ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ダークで残酷な中にもある、星に願いを

2022年5月23日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

楽しい

怖い

幸せ

映像化は数知れず。
最も有名なディズニー・アニメ、『ベイブ』のスタッフによる1996年の実写版、何の気の迷いかロベルト・ベニーニが演じちゃった2002年の珍作…。(本作ではベニーニはジェペット役!)
映画にアニメにTVドラマに漫画に小説に。日本でも手塚治虫による翻案漫画も。
直近でも3本が公開/待機中。
本作と、9月にロバート・ゼメキス×トム・ハンクスによるディズニー・アニメ版の実写化(ディズニープラスの配信のみで見れないのが残念…!)、ギレルモ・デル・トロによるストップモーション・アニメが12月にNetflixで配信。
一体急にどうした、ピノッキオ・ブーム…?
今から100年以上も前、イタリアの作家によって書かれた児童文学。これを児童文学らしいファンタジーとして見るか、書かれた当時の社会風刺として見るかで、ピノッキオは作り手、国、時代によって様々な形に作り変える事が出来る。
おそらくディズニー・アニメの実写はオリジナル同様愛されるだろうが、本作とギレルモ・デル・トロ版は好き嫌い分かれる事必至。
知ってるようで知らなかった“ほんとうのピノッキオ”に驚いた。

ストーリーはよく知られているから割愛…いや、“よく知られている”のはディズニー・アニメの翻案。『美女と野獣』も『リトル・マーメイド』もそうだが、今ではディズニーの翻案こそがスタンダードになっていて、元の原作小説が全く知られていないというある意味異常事態。
『ピノッキオ』も然り。ディズニー翻案とは違う、原作忠実点を初めて知った。

ピノッキオ誕生は、ディズニー・アニメではお空の星から現れた妖精“ブルー・フェアリー”によって生命を与えられた事になっているが、本作(原作通り)によると…
意思を持って喋る丸太。それをジェペットが同じ大工の“さくらんぼ親方”から譲り受け、木の人形を作る。
妖精の魔法ではなかった…!
そのブルー・フェアリーに該当する妖精は、森で奇妙な擬人化生物たちと暮らし。
ピノッキオの“良心”として助言し、冒険にも同行するジミニー・クリケットは居ない。…いや、“コオロギ”は登場するが、その他のキャラ程度。
終盤ピノッキオとジェペットを飲み込んだのは鯨ではなく鮫だったりと、細かく挙げたら相違点は多々。
如何にディズニー・アニメは我々をこんがらがせ…いや、巧みな翻案/脚色に苦労したか。

もし小さな子供がディズニー・アニメより先に本作を見たら(見ないだろうが)、『ピノッキオ』に対してトラウマになっていただろう。それくらい奇妙な世界。
擬人化された“カタツムリ”“コオロギ”“マグロ”などの見た目や造形はかなり不気味。
奇妙で不気味で怖さが滲む、グリム童話のような雰囲気。
それでいて、ティム・バートンやギレルモ・デル・トロ作品を彷彿させるような独創性と美のダーク・ファンタジー。
映像、美術、音楽、オスカーにノミネートされた衣装やメイクのクオリティーは一見の価値あり。

ディズニー・アニメでも感じていたが、『ピノッキオ』は改めて見てみれば残酷な話である。
卑しい大人。そんな大人に騙され、罠に嵌められ、何もかも失う。
窃盗、誘拐、命の危険。
我が身の危機ばかりではなく、自分自身にも否があれば罰が下る。
猿判事の裁判所。無罪は牢屋送りとなり、有罪は釈放という不条理。
ここら辺に原作者が執筆した当時の社会風刺が見て取れる。善悪のあやふや、混迷するカオス…。
ピノッキオも決してイイ子ちゃんではなく、怠け者で楽な道や旨い話を選ぶやんちゃ者。素直で純真でもあるけれど、それは時に世の甘く危険な罠の格好の餌。
ディズニー・アニメのような教訓と夢のハートフル・ファンタジーを期待すると、痛い目に遭う。シビアで痛くて苦くて、寧ろビジュアルより余程恐ろしい。

“ほんとうのピノッキオ”は残酷物語だった…!
でも、全てがそうじゃない。
後悔、反省からの成長も描かれる。
勿論最後は、お馴染み。数々の苦難、体験、冒険を経て、報われる。
だから我々は『ピノッキオ』を見る時、必ず信じるのだ。
夢は叶うと。星に願いを。

近大
talismanさんのコメント
2022年5月23日

星に願いを。本当にそうですね。それからピノッキオ・ブームにはびっくりです。ディズニーの功罪大きいですね。白雪姫もシンデレラも(多分)ラプンツェルも、原作というかグリムやペロー(かな?)と全然異なりますね。

talisman