劇場公開日 2021年11月19日

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「今年(2021年11月20日時点)では文句なく最高難易度クラスの映画(説明入れてます)」茲山魚譜 チャサンオボ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0今年(2021年11月20日時点)では文句なく最高難易度クラスの映画(説明入れてます)

2021年11月21日
PCから投稿

今年181本目(合計245本目)。 ※日をまたいでいますが、20日(シネマート心斎橋さん)です。

映画のポスター等を見ると、海洋生物などを研究する人物を描いた作品なのかな?と一瞬思えますが、それはトラップ(まぁ、公式も意識していないと思いますが…)。
それも一応でますが、実話ベースのお話なので、19世紀の朝鮮半島時代の事情を知らないとわからない部分や、流刑にされたとはいえ地位の高い人物であったため、漢文をたしなむ内容や、「論語」や「大学」などの中国の思想書の話まで出てくるので、恐ろしく理解難易度は高いです(余りにも難易度が高すぎるセリフは、右側に補足説明が入るくらい)。

多くの方が書かれている通り、エンディング間近以外はモノクロ構成。これは好き嫌いあるのかなと思います。あえてモノクロ構成にしたことで当時の雰囲気を出したかったのかなとも思えるし、この作品は古い時代のリバイバル放映でもない)

上記に書いた通り、恐ろしく理解難易度が高い映画です。日本の高校世界史では19世紀の朝鮮半島の歴史はほとんど扱わず、内容も説明不足の部分もやはりあるからです。さらにそこに漢文(漢詩の話。主人公はハングルではなく、漢字を扱って書物を書いていた)の話やら、中国の思想、さらに当時の朝鮮半島の身分差別の問題まで出てくるので、理系文系両方の知識が求められるという、「最後の決闘裁判」をはるかに超える超コアな映画です。
実際、視聴前に多少、下記(最低限書いてます)の知識がないと、何がなんだか不明な展開になってしまい、「海産物よかったなぁ」というわけでもなく(海産物を扱った映画にも一瞬思えるが、海産物の話は3割も出ない)、かなり難しい映画になってしまっています。

 ※ 今はコロナ事情で無理ですが、韓国から大阪市(現在、この映画はシネマート心斎橋さんなど少数でしか放映されていない模様だが、今後増えることは告知されている)に旅行したネイティブの方がみて、やっと理解できるのでは…というくらいです。
日本では大学で近代朝鮮史を専攻しましたというレベルの方以外、もう予習必須で、それで6割~7割か…というくらいです。

 この実在する登場人物は3人兄弟で、いずれも実学(特に西洋技術)を得意としており、現在のスウォン城(水原城)の構築も、末弟の指導・経験に基づくものです(特に建築に詳しかった模様)。また、本映画の主人公の残した海産物に関する書物は、現在では韓国では当たり前のように幼児・子供が読む「水産物図鑑」の原点となったと言われる書物です。

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(減点なし) 上記に書いた通り、2021年(10月20日時点)では、「最後の決闘裁判」(この映画も、日本では世界史で百年戦争を扱わないので、字幕不足も相まって理解が難しかった)をはるかに超える難易度になってしまっています。
とはいえ、110分ほどで扱える内容には限界があり、韓国映画という事情がら、ある程度行かれる方は「最低限の予習はしているのだろう」という暗黙の前提知識があるようで、そこはもうしょうがないと思います。本来的には「パンフレットと抱き合わせにするのは好ましくない」と思いますが(以前書いた通り)、とはいえパンフレットも700円と良心的ですし、字幕内のやや配慮が足りない部分も、ちゃんとこちらでは補われています。
また、パンフレットも本映画だけではなく、趣旨的に類似する映画・書籍の紹介などもあり、単純に「パンフレットだけ」という状況でもありません。
本来的には抱き合わせ前提は好ましくないのですが、この映画を完全に誰でもわかるように描こうと思うと240分コースであり、そんなのはもう無理なので、仕方がないかと思います。

(減点なし)私はシネマート心斎橋さんで観たのですが、ポスターの左側に、映画雑誌や新聞の紹介記事などの切り抜きが張られています(著作権的な問題はとりあえず度外視)。ひとつだけ「朝鮮半島最南端に流刑され…」という記述があるのですが、李氏朝鮮で最南端は済州島であり(李氏朝鮮時代には、領土の一部としてみなされていた)、本映画の黒山島ではないはずです。事実、映画内でも「最西端のこんな場所に流刑されちゃってかわいそうに…」という字幕が出ることからわかる通り、字幕が正しく切り抜き記事のミスなのですが、シネマート心斎橋さんでこのミス逃しは良いんでしょうか…?(シネマート心斎橋さんは韓国映画を多く流すので、この程度のミスは自分で修正して読めってこと?)

(減点なし)「西海と東海では同じ魚でも構造が微妙に違うの」という趣旨のセリフが出るところがあります(始まって30分くらい)。ここは結局、

 ・ 今の日本海呼称問題
 ・ 黒山島から見たときの、西/東の概念

 …のいずれにも読めるのですが、後者だとその範囲で魚の構造が違うというのは地理スケールとして微妙なので、前者と解することができますが、当時(この映画は1801~を描く映画)では「日本海」「東海」という呼び方の問題を誰も議論していなかったのは明らかで、そこで逆に日本に配慮して「日本海」と言う方がむしろ珍妙な映画になるので、そこも減点なしにしています。

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 ▼ 参考(本映画の前提知識)

 天主教徒弾圧事件(辛酉教獄) 1801年に起きたキリスト教弾圧事件。多くの被害者を生んだと言われます。この弾圧はもう1回あり、キリスト教信者のみならず、西洋文化や技術を否定したため、アヘン戦争(1840ごろ~)以降も朝鮮半島は「取り残される」形となり(宗教弾圧がひどく、戦争に耐える状況ではなかった)、結果的に朝鮮半島の近代化が遅れた一因と言われます。

 漢詩などを読むシーン 上記に書いた通り、流刑されたとはいえ、身分の高い人物で、当時はまだハングルよりも身分の高い人は漢字で読み書きするのが普通でした。そのため、いわゆる漢詩(5文字、5文字、5文字形式や、7文字、7文字、7文字形式等)をたしなむのが普通で、序盤にその話も出ます(突如登場し、字幕にいきなり出てくるが、字幕は漢字「しか」ないので何かわかりづらい)。

 「論語」や「大学」などの描写 上記と同じく、やはり身分の高い人は、朝鮮半島といえども、まだこの当時の「論語」などを自由自在に読めて理解できるのが当たり前でした(だから、映画内でも漢字でしか出てこないし、ハングルも出ない。エンディングクレジット以外、ハングルはほぼほぼ出ない、ある意味珍しい映画)。これらの思想は日本では高校では「倫理」などで扱うかと思いますが、必須科目でもないですし、多少出る程度なので、「あれば有利だが、ないと何が何だか理解できない」状況でもないです。
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yukispica