劇場公開日 2021年11月12日

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「とにかく丁寧な作り込みが印象的」信虎 藤崎修次さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0とにかく丁寧な作り込みが印象的

2021年11月22日
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信玄公生誕500年の今年、敢えてその父・信虎にスポットを当てた軍記物。

一般的に良く知られているのは信玄との確執から甲斐を追放されたことまでで、信玄の死後、国主への返り咲きを目論んで帰還を果たそうとしたことは知らなかった。

本作はそんな信虎が信玄危篤の報に接し、甲斐への帰国を決意したところから始まるが、混乱に乗じた周辺諸侯の侵略を案じる臣下の者達の反対に遭って領下の城に封じられて、なかなか甲府へ戻れずにもどかしい日々を過ごす。
やっと躑躅ヶ崎館へ戻ったと思った矢先、自身も病に倒れ、武田家の行く末を案じながら世を去る、という信虎の最晩年とその後、孫の勝頼の代で武田家が滅亡するまでの数年間ほどの話なので一つ一つのやり取りにじっくり時間を掛けて描かれていて、伝記物にありがちな出来事を何でもかんでも無理やり詰め込んだ感を排してるのが良い。

物語は江戸初期の幕府要人にして、武田家再興に尽力した武田家の縁戚・柳沢吉保が子に甲陽軍鑑の内容を講釈する体裁で進行する。だから、極力平易に描かれているし、画面上では新たな登場人物や場所にその都度、説明字幕が付くので歴史に疎い人でも見やすくなっているのも親切。

また、着物・甲冑・髷、調度品、乗っている馬や合戦シーンの飛び散る血しぶきに至るまで細部までこだわっているのも製作陣の力の入れようが伝わってくる。

そして、映画音楽の大御所・池辺晋一郎の曲がこの作品に重厚さを与えている。

ただ、単なる歴史大河モノに終わらせず、信虎が身延山久遠寺にて会得したという秘術を駆使し、周囲の者たちに次々と呪いを掛け、最後は自身にも秘術を用いて、輪廻転生を果たし後世に武田家の再興を果たしたという眉唾物のエピソードは少し作品自体を軽くしてしまったかな?

主演の寺田農はインタビューで「自分はアマチュア役者」と語っていた事もあるとおり、どんな役柄にも染まれる芝居上手な俳優では決してなく、ちょっとアクが強くて、キャラが立った役者さん、という印象。
だから、ハマる役とそうでない役の差が大きくて、演じる役柄によっては、言葉は悪いが画面の邪魔になってる事も多い役者、というのが個人的なイメージ。

本作でも、棒演技が鼻につく(特に臨終のシーン)ところもあったが、長い役者人生で久々の主演作で力が入っているのは画面越しに伝わってきた。

返す返すになるが、歴史に疎い人でも見易いように非常に丁寧に作られた作品。
上映館が少ないのが勿体ない。

藤崎修次