劇場公開日 2021年11月12日

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「歴史的な説得力と迫力」信虎 玄心さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0歴史的な説得力と迫力

2021年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 面白い映画だった。時代劇の妙味は、基本的な史実は史実のとおり尊重しながら、その史実の間に「そういうこともあったかも知れない」という伏線を埋火のように埋めることだが、それに見事に成功している。登場人物が多いが、人物の登場に合わせて人物名が「武田信勝 勝頼の嫡男」などとタイムリーにテロップで出るので、混乱なく歴史の順序に気持ちが乗っていける。人物名がテロップで出ない映画の場合には、「これは信勝様!」と呼び掛けるなどのセリフが必要だが、それがない分、会話がすっきりしていて自然な臨場感がある。テロップがなければとても135分の尺に納まらなかっただろうと思われる。
 建物や馬具、武器、さらには食器に至るまでリアルなものが用いられており、視覚的な迫力・説得力は大変なものだ。
 また、戦闘シーンの自然さはとくに強調しておきたい。戦国時代の太刀捌きや足捌きは、徳川時代になってから定まった所作とは全く異なる。太刀の寸法も違えば、槍や弓の使い方も異なる。そのような武道所作のひとつひとつが、そういうことに詳しい者の眼で見ても不自然でないほど正確に、つまり歴史的考証に忠実に仕上がっている。時代性に忠実なタテの指導に敬意を表すると同時に、そのタテ指南に誠実に答えたキャストの人達の画面には映らない努力の大きさがうかがえ、久しぶりに見応えのある思いをした。
 信虎は信玄によって国を追われた信玄の父である。父を追い払って当主となった信玄はその後間もなく陣中で没した。物語はそこから始まり、武田家が滅亡を迎え、徳川治世になってから再興を果たす。物語の中心プロットは、この滅亡と再興を繋ぐ一本の細い糸で、じつに巧みな構想で挿入されていて、鑑賞者は最後に膝を打つ仕組みである。その糸や埋火についてレビューでこれ以上触れるのは、マナー違反であろう。劇場でご覧になることをお勧めする。

玄心