劇場公開日 2021年10月15日

  • 予告編を見る

「黒人たちがこの社会に虐げ続けられる限り、“その名”を呼ぶ声は止まない…」キャンディマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5黒人たちがこの社会に虐げ続けられる限り、“その名”を呼ぶ声は止まない…

2022年3月20日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

興奮

日本で言ったら、アンパンマン?
お腹空いたなぁ…。そんな子供たちにキャンディをくれ、悪者をやっつけてくれる。
…って、甘い名前だからと言ってそんな優しいヒーローじゃない!
“奴”がくれるのは、恐怖、血、殺し…。

キャンディマン、キャンディマン、キャンディマン、キャンディマン…
鏡に向かってその名を5回呼ぶと、現れる…。(↑おっと!大丈夫! まだ4回)
日本で言ったら、“こっくりさん”のような都市伝説。
それを基にした1992年のカルト・ホラーをリブート。
…いや、ただのリブートではなかった。92年版の続編でもある。
92年版の話も絡み、オリジナル・キャストも出演。92年版ヒロインのヴァージニア・マドセンの顔写真や声も流用。
昨今の流行りの“新生”であり“続編”。
92年版は未見で、そちらも見ていればより面白いのだろうが、本作単体でも難なく見れる作りになっている。

右手は鋭利な鍵爪。大き目のトレンチコートを羽織り、蜂の大群を従え現れる…。
90年代に誕生したホラー・キャラ故、作品も謎の殺人鬼によるスプラッター系。
鍵爪で切り付け、痛々しい流血。
学校のトイレでの女子生徒数人の殺人シーンは秀逸。落ちた手鏡に殺される様とキャンディマンの姿が映り、直線的な描写より“覗き見”風の恐怖を煽る。
蜂に刺された主人公アンソニーの手が、甲から腕にかけて不気味に変化していく様もグロい。
痛く、ドキドキ、グロい、三拍子揃ったホラー描写はそつなく。

創作活動に行き詰まった先鋭的アーティストのアンソニーが、キャンディマンの都市伝説を聞き、そこからインスピレーションを得ていく…。
主人公の職業が画家なのが特徴的で、キャンディマンの影響受けて描く画も変化していくのが印象的。奇抜な作風が、生々しくおどろおどろしい画へ。
批評家には酷評され、画商の恋人から理解されずとも、画を描きたい欲望に駆られる。それは貪欲に、精神を病むほどに。
“アート”は作風や描写にも表れる。
アーティストとしての苦悩、葛藤の物語でもあり、
画廊での殺人シーンは赤や青の照明を強調した映像美を創り出す。
キャンディマンの伝説や過去の事件を影絵で表現。独創性溢れる。
単なるスプラッター・ホラーの再現だけではなく、アート映画の一面も。

そこには製作スタッフの異才も反映されている気がする。
プロデュース/脚本を担当し、この知る人ぞ知るカルト・ホラーを現代に蘇らせたのは、『ゲット・アウト』『アス』の鬼才ジョーダン・ピール。
オリジナルは当時としては珍しかった黒人ホラーだという。
『ゲット・アウト』『アス』も人種差別や社会風刺などをテーマに織り込み、黒人社会をテーマにしたホラーを作り続けるピールが携わるのは必然だったと言えよう。
米シカゴの黒人たちが暮らす公営住宅“カブリーニ=グリーン”。
周囲との格差、貧困激しく。この地に暮らす黒人たちへ放った白人女性絵画評論家の皮肉は痛烈。
あくまで“都市伝説”のキャンディマン。が、伝説には必ず、曰く付きの秘話がある。
それを知る老人から聞いた、キャンディマン誕生に纏わる悲惨な物語…。
それは単に一つの事件じゃない。アメリカで起きた黒人差別事件が幾重にも重なり合って。
キャンディマンは、この社会が黒人を虐げ続ける歪み、不条理、怒り、悲しみ、怨みの具現。
劇中殺されたのは皆、白人なのである。
キャンディマンの台詞、「私の名を呼べ」はそんな犠牲になった声無き者たちの声。
また、かつての“ヘレン事件”。(92年版の話)
誘拐された赤子、宿命、恋人との関係…。
殺人鬼×スプラッター・ホラーである事は大前提でありつつ、ドラマ性や社会派テーマも重視。
これらは監督の感性なのだろう。
監督は俊英。ホラー映画には異例の黒人女性監督、ニア・ダコスタ。
次回作はMCU作品『THE MARVELS』(『キャプテン・マーベル2』)に抜擢され、注目の存在!

“新生”と先述したが、“継承”の方が正しいかもしれない。
恐ろしくも悲しい運命…。
それを受け入れるしかないのか…?

そうさせたのは、この社会。
今も尚続く。罪無き黒人たちが犠牲になり続ける限り、“奴”はやってくる。
蜂を従え、鍵爪を光らせて。
さあ、呼べ。私の名を。

気付いたら、“その名”を12回も言っていた。
ひょっとしたら、何処からともなく…。
…あッ!
ウギャ~~~ッ!!

近大