劇場公開日 2022年4月1日

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「人間の哀しさ」英雄の証明 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人間の哀しさ

2022年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画は人間を描くものとすれば、本作ほど人間としっかりと見つめた作品はそうそうない。理想化も矮小化もしないで確かにここにはありのままの人間が映されている。収監され不名誉を恥じていた男がささいな良いことをして誉められたいと思うのも、過去に傷のある奴を怪しく感じてしまう大衆心理も、人助けのためなら嘘をついて誤魔化してもいいだろうと考えるのも、小さな疑惑が膨れ上がり、いつの間にか尾ひれがついて大きな悪を想像してしまうのも、ちっぽけな人間のなせる業。誰もが断片的な情報に踊らされ、それぞれの立場から見えるものだけを正しいと思い込む。ほんのわずかなボタンの掛け違いが続いてしまうと人は人を信用できなくなる。本当に紙一重のことに過ぎないにもかかわらず、その積み重ねが大事を生んでしまう。人間の営みは本当に哀しい。しかし、社会とはこのように日々営まれているという説得力がすごい。
人物の配置とプロットが大変に上手い。人間ドラマとはこう作るのだというお手本のような傑作。

杉本穂高