劇場公開日 2022年4月1日

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「「白い牛のバラッド」に並び、世界クラスの普遍性を備えた今年観るべきイラン映画」英雄の証明 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「白い牛のバラッド」に並び、世界クラスの普遍性を備えた今年観るべきイラン映画

2022年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

2月に日本公開されたマリヤム・モガッダム監督兼主演作「白い牛のバラッド」に続き、またもイランから骨太の社会派ドラマがやって来た。アスガー・ファルハディ監督は、「別離」が米アカデミー賞でイラン映画として初の外国語映画賞を獲得するなど、かの国の特殊性にとどまらないワールドクラスの普遍性はお墨付き。新作の「英雄の証明」も、岩山の壁面に刻まれた壮大な遺跡群を誇る古都シラーズを舞台にしながら、マスメディアとSNSによって無名の人物が一躍英雄になったり、またたちまち転落の危機にさらされたりといった、まさに今の情報過多な世界に起こりうるストーリーを描いている。

先述の「白い牛のバラッド」とは、囚人と刑務所、主人公の子が抱えるハンディキャップ、謎めいた関係者など、プロット上の共通点もいくつかあるが、予測のつかないストーリー展開という点でも一致する。大手媒体に掲載された評であらかたの筋を説明してしまっているものも見かけたが、事前にあまり情報を入れずに観る方が良い映画だと思う。

それにしても、主人公ラヒムが世間に英雄として持ち上げられ、今度は悪い噂で叩き落されそうになり必死に切り抜けようとする姿を、観客もまた我が事のように心をひりひりさせながら見守ってしまうのは、似たような実例をいくつも見聞きしてきたからではなかろうか。経歴詐称で表舞台から消えた経営コンサルタント、問題ある言動が暴露され干された芸能人、虚偽の発表やずさんな経営が発覚した新興企業創設者……。

そして、このような騒動が起きた時、当人だけでなく、家族や親しい人々も否応なく激しい渦の中に巻き込まれることも的確に描いている。とりわけ、吃音症を抱える息子シアヴァシュが追い込まれていく過酷な状況に、ファルハディ監督の“すごみ”を見せつけられた気がする。

高森 郁哉