劇場公開日 2022年3月4日

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「音の映画」MEMORIA メモリア 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0音の映画

2022年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画の「音」とは映像の従属物に過ぎないのか否か。近年、それを覆そうと試みる、音を優位に置いた映画作品が散見されるようになってきた。電話の音だけで事件を解決する『THE GUILTY/ギルティ』などがそうだが、本作も映像以上に音の方が物語に核心に迫っている作品だ。誤解を恐れず言い切ってしまうと、映像に映っているものより聞こえる者の方がはるかに重要な位置を占めている。
主人公の脳内に響く音の正体はなんなのか、それは映像では全く切り取ることのできない、壮大なイメージを観客に与え、想像力を無限に広げてくれる。映像は具象的な表現だが、音は抽象的な表現。あらゆるものが映像化されて、見たことのないものを提供することが困難になりつつある時代、観客が体験したことのない未知の世界を提供できるのは、映像よりもむしろ音なのだとこの映画は教えてくれる。

杉本穂高