劇場公開日 2022年4月22日

  • 予告編を見る

「恋愛下手の床上手」パリ13区 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0恋愛下手の床上手

2023年5月4日
Androidアプリから投稿

歴史遺産が多いパリにあって、チャイナタウンを内包する「パリ13区」は、つねに新しい動きのある渋谷のような街らしい。セリーヌ・シアマそしてレア・ミシウスという若き女流作家と初めてタッグを組んだジャック・オーディアール曰く、本作は今までの男臭いノワール作家としてのイメージを払拭する(ロメールの『モード家の一夜』を意識した)軽妙なコメディだという。

ちょっとずつ自分に嘘をついている3人の男女が主人公。施設に入所した婆ちゃんの部屋を譲り受け、コールセンターのアルバイトをしている台湾系のエミリー(ルーシー・チャン)。国語高校教師をしながら資格取得を目指しているアフリカ系のカミーユ(男)、叔父の経営する不動産会社をやめて大学に復学したノラ(ノエミ・メルラン)。脱ぎっプリの良さはすでに『燃ゆる女の肖像』で証明済みのメルランに負けじと、アジア系のルーシー・チャンが大胆な裸体を見せてくれているのにはちょっとビックリ。

パーソナリティー障害の気があるエミリーはセックス依存性で、そんなエミリーのルームメイトになったカミーユは新しい相手と肉体関係を結ぶがすぐに飽きてしまう浮気男、大学でネット専門のセックスワーカーと勘違いされたノラは叔父との近親姦が原因で不感症に悩んでいる。要するに3人とも自分が“病気”であることに気づいていないのだ。映画冒頭のギザギザ屋根や映画ラストの壁掛電話は、すでにふさわしい相手とめぐり合っているのにもかかわらず、おさまるべき“サヤ”になかなかおさまりきれなかった3人の関係を表現したメタファーだったのかもしれない。

そこで重要な役割をはたすのが、SEXチャットやスカイプなどのアプリ。カミーユが部屋を出ていった後ぽっかり空いた心の穴を埋めようと、マッチングアプリで見つけた男と狂ったようにSEXを繰り返すエミリーだが、本当の愛は見つからない。SEXチャットのせいで大学にいられなくなったノラは逆に、自分に顔つきが似ているルイーズとスカイプしているうちに、クイアとしての自分の本性に気がつくのである。

すでに住むべき家を持っているエミリーは大卒なのにアルバイト生活、資格試験の勉強しているカミーユはお金のために慣れない不動産家のお手伝い、そこに雇われた休学中のノラは手慣れた不動産の仕事に力を発揮するが....家と仕事、そして学歴のバランスがどこかチグハグでうまく整合がとれていない3人なのだ。この3人、もしかしたらオーディアール、シアマ、ミシウスの関係をそのまま投影しているのかもしれない。なぜなら3人とも本来のテリトリーではない、男女のラブストーリーに果敢にもチャレンジしているのですから。

コメントする
かなり悪いオヤジ