劇場公開日 2022年4月22日

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「モノクローム映像が鮮烈に感情を伝える」パリ13区 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0モノクローム映像が鮮烈に感情を伝える

2022年4月26日
PCから投稿

過去を見つめる手法としてモノクロを選び取る作品はいくつもあるが、ジャック・オーディアール監督の映像力はそういった時代性を超越し、色を削ぎ落とすことによって逆に鮮烈化した芸術性や感情の塊が、観客の胸にダイナミックに飛び込んでくる。若者たちの艶かしいセックス描写。エクスタシーと共に高揚していくエレクトロな音楽。絶頂を迎えつつもどこか満たされない心の中の空洞ーーー。トンネルの暗闇のような毎日の中で、彼らが切実に求めているものは明快で単純だ。しかし答えがあまりに身近にあるがゆえに、本人たちにとっては気づきにくく、なおかつ素直になることができない。そのいじらしさや頑なさも登場人物の魅力を高める一因となっていて、映画が終わる頃には長所も欠点も全て理解した上で、彼らのことが好きになっているから不思議なものだ。丁寧な物語運びの中に破天荒な要素を併せ持ち、まるで現代の神話のような特殊な輝きを放つ作品である。

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牛津厚信