劇場公開日 2021年7月17日

  • 予告編を見る

「閉塞的な今だからこそ浴びるべき異様な熱気」ジャッリカットゥ 牛の怒り monさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5閉塞的な今だからこそ浴びるべき異様な熱気

2021年7月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

全く知らない国の祭りをみているような感覚になる。登場するキャラクターたちに感情移入したり、ストーリーに没入することはなかったが、粗野な人々の熱量に溺れ、息が荒くなっていくのを感じる映画。
ストーリーはごくごく単純で、脱走した食肉用の牛を捕まえるために、村人や近郊に住むアウトローやら騒ぎたいだけの若者たちが躍起になる、というもの。捕まえるために大した作戦があるわけでもなく松明を持って追い回すだけ、倒すための作戦もなく、牛に近づけても逆に追いかけられたり吹っ飛ばされたりコケたり、お粗末なもの。
そして、キャラクターたちも自分の被害に文句を言ったり、新婚の妻を殴ったりだとか不快な奴らばかり。銀行が牛に襲われるシーンでも、銀行員に「助けてやるからウチの差し押さえをなんとかしてくれ」なんてことを言っており、どうしようもなく必死な奴らばかりで頼りになりそうなやつは誰一人いない。
しかし、今の日本に溢れる自粛やマスクや飲酒などの制限だらけの環境から、そして何を発言するにしても誰かに配慮しなければいけない不自由さから、この映画のコミュニティの熱量が、キャラクターの粗野さが、解き放ってくれる。そして牛を追い、その肉を求める熱狂に放り込まれる。牛を追い、牛に追われ、牛に店を破壊された怒り、何もしない警察の怠慢に怒る人々をカメラが捉えるが、あふれる臨場感に気づけば自分も牛パニックの中。牛を追うことに興奮を覚えるようになる。BGMは全編を通して人の声と打楽器だけで、異様な祭りに参加している熱気を感じさせる。
何かが煮詰められて硬さと異様な臭さと鈍い輝きを感じられるような映画。度数の強い酒を流し込み、旨さはわからないけれどカッと熱くなるような、そんな映画。

ライモン