劇場公開日 2022年10月21日

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「達観し観念する。歴史には勝てない。」アフター・ヤン t2law0131さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0達観し観念する。歴史には勝てない。

2022年10月22日
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『凱里ブルース』(2015年)や「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯へ』(2018年)のビー・ガン監督が気になって仕方がない昨今。新作も出てこないし、動向さえ聞こえてこない。で、『コロンバス』(2017年)から5年、やっと2作目というコゴナダ監督作品。小津が好きで、野田高梧からペンネームをコゴナダにした、というだけで相当のオタクな人物だと想像できる。その描く作品は「誰も絶叫しない」のだ。あたかも笠智衆が微笑みながら原節子に「アリガト」という清とした佇まい。ビー・ガンの狂気にも似たワンカット映像とともに、コゴナダ監督の「深い場所にある狂気」をヒリヒリと感じる快感が、本作にもある。
家族のように生活していたAIロボット召使い「ヤン」が突然故障。修理もままならない内に彼の辿ってきた歴史が判明してくる。という近未来ドラマ。長い長いヤンの歴史の帰結に、我々は歴史の一部に過ぎない、という邯鄲の夢のような真理を突きつけられる。前作の『コロンバス』では都市と建造物が否定し得ない歴史の証言者として立ちはだかったのに、似ている。そしてコゴナダ監督は、そんな戦いようのない「歴史」に静かに降伏し、リスペクトしていくのだ。達観し観念し、家族のパターン化を追求した小津安二郎のように。

t2law