劇場公開日 2021年12月3日

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「綺麗事で片づけられないからこその葛藤を丁寧に描いた映画」彼女が好きなものは にゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5綺麗事で片づけられないからこその葛藤を丁寧に描いた映画

2022年1月20日
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山田杏奈ちゃんの演技見たさで鑑賞。

思わぬ良作との出会いだった。

相変わらず、等身大の女子高生役がハマっている山田杏奈ちゃん筆頭に、主人公の神尾くんもその幼なじみの前田くんもみんなハマっていた。

神尾くんじゃカッコよ過ぎるのではと鑑賞前に思っていたが、容姿端麗具合が悪目立ちせずにかえって中性的な印象を与えていたのが良かった。

脚本も素晴らしかった。

当事者の苦しみ、周囲の戸惑い、理解のなさ、理解しようとするも上手く思考が追いつかない感じ。

人々の描きにくい感情を上手く描いているなと思った。

特に理解したいのに思考が追いつかない心情表現は見事だった。

山田杏奈ちゃんが演じていた三浦さんという女の子は、自分は同姓愛者に理解がある方だと思っていたけど、それが彼だとは想定していなかった。

だからこそ「そういう人もいる」とか、「誰を好きになってもいい」とか口ではいくらでも言える綺麗事を、安易に発することなく(発せられず)、「どうしたらいいのか」という率直な戸惑いを彼に伝えたシーンは物凄く現実味があるように思えた。

幼なじみの子だって、内心戸惑いはあったかもしれない。

でも、それを彼に見せることなく理解者として振る舞おうとした姿は、それはそれで容易なものではないと思う。

登場人物それぞれが思う感情がそれぞれあって、正解はない。

気持ち悪いという感情を思ってしまうのも、言葉を発した人の立場になると分かる気もしてしまったし。

だからこそ、少しでも人間関係の摩擦を減らすために「分かろうとする」姿勢が大事なのかもしれない。

他人のことを完全に理解することはできないことを日常生活で思い知ってる私たちは、周囲からしたらマイノリティの人たちに対しても同様の姿勢をとるべきなのだろう。

ただ、その過程で拒絶してしまったり、諦めてしまうから誰かが苦しまざるを得なくなる。

自分という人間だって完全に他人に分かってもらえるわけがないのだからもっと寛容にならなければいけないのかもしれない。

私はこの映画を見て、いろいろな感情が目まぐるしく行き来した。

自分が当事者だったら?
恋人だったら?
幼なじみだったら?
クラスメイトだったら?

全然違う感情になる気がする。

同性愛はもちろんだが人間関係を再考する機会も与えてくれた映画だった。

にゃん