劇場公開日 2021年12月17日

「人は日常で演じている生き物」偶然と想像 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人は日常で演じている生き物

2021年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

3本の中編からなるオムニバス映画で、それぞれも物語にはつながりはない。タイトルにある2つの単語をキーワードに人々の悲喜こもごもが描かれるわけだが、濱口監督の鋭敏さが全編に溢れていて大変見ごたえある作品だった。偶然の出会いから、想像性が生まれ、化学反応を起こして一瞬の奇蹟のような瞬間が最後に訪れる。
日常生活で、人は意外と想像して演じているものなのだとよくわかる3本だ。1話では友人の新しい彼氏が自分の元カレだとわかり、そのことを隠して初対面の人間を演じる、2話ではセックスフレンドの大学生に頼まれ、教授を色仕掛けしようと演じる、3話では高校時代の同級生だと勘違いしてしまった2人の女性が、あえてそれぞれの級友を演じる。それぞれ、偶然の出会いから、想像して誰かを演じている。
全編、肩の力の抜けた、一筆書きのスケッチみたいな感覚なのも、心地よい。結構笑える作品なのだ。「うわー、そこで出会っちゃうあ」みたいな間の悪さとやり取りのズレの滑稽さ。誰にでも訪れそうな、ありふれた日常にこんな豊かな物語があるんだと思わせてくれる素敵な作品だった。

杉本穂高