劇場公開日 2022年1月14日

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「馬とともに半生を過ごした人柄の魅力」クライ・マッチョ talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0馬とともに半生を過ごした人柄の魅力

2023年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

<映画のことば>
「町中の連中が来た。俺はドリトル先生か。」

単に「牧童」と言ってしまうと身も蓋もありませんけれども。しかし、往時は「カウボーイ」といえば、「男の中の男」…最も男らしい職業であったことは、間違いがなさそうです。しかも、マイクには、ロデオ・スターとしての斯々たるキャリアもあった。
そういう過去の「栄光」を自分からは前に出そうとしないマイクの人柄が、頑なだったラフォの心を溶かし、マルタの心を惹きつけ、そして動物(マイクの半生を一緒に生きてきた馬)の扱いを通じて、本来はただ立ち寄っただけのベラクルスの町の人々(実は恐妻家だった保安官を含めて)の信頼を得たたことは、疑いがないと思います。

そして、その根源にあるのが、マイクの「本物の強さ」ということでしょうか。
歳をとって肉体的は衰えたとしても、それまでの馬との生活によって鍛えられた精神的な強さ(輝き)とでも形容すればよいのでしょうか、いぶし銀のように輝く、そういうマイクの人柄としての魅力が根底にあることも疑いのないところです。

マイクは決して強ぶっているわけではなく、それどころか警察の不当な臨検に遭ってクルマの装備をめちゃめちゃにされた時には(ちゃんと?)弱音を吐いているわけです。 ただのマッチョではなく『クライ(cry=泣く)マッチョ』になっている?
それでも、マイクの人柄そのものから滲み出てくる「マッチョさ加減」というものは、少しも減殺されていないというべきでしょう。

歳をとって、若い頃のように無理に強がることをしなくなったら、本当の強さが、自分の内側からにじみ出てきた…とでも形容すべきでしょうか。
年齢を重ねたクリント・イーストウッドの「老害」を説くレビュアー諸氏も少なくないようですが、評論子は反対に、さすがのクリント・イーストウッドも、老境に達して、初めて創ることのできた一本なのではないかと、思います。
むしろ、この年齢に達して、初めてこの作品が撮れたのだろうと思います。

評論子も、馬齢を重ねるごとに、疲れやすくなる、息は上がる、耳は遠くなる、目は霞む等々肉体的な衰えは覆うべくもないところですけれども。
それでも、マイクのような「いぶし銀」のような強さを、もし身に付けていられたとしたら、それは、とてもとても素晴らしいことだと思います。

俳優としての味のある演技だけでなく、ヒューマン・ドラマの名手としてのクリント・イーストウッドの神通力は、作品の製作本数を重ね、自身もが老境に達しても、未だに衰えを知らないと評することができると思います。

秀作であったと思います。本作も。名監督にして名優であるクリント・イーストウッドの手になる一本として。

<映画のことば>
「すべての答えを知っているような気になるが、老いとともに無知な自分を知る。気づいていたときには、手遅れなんだ。」

経験を積み重ねるごとに、いかに自分が経験不足であるかを赤裸々に思い知らされ、更なる研鑽が必要なことを思い知る―。
「実るほど/頭を垂れる/稲穂かな」
とは、よく言ったものです。
常に今の自分を是とすることなく研鑽・努力を怠らない…。
自分の「老い」を素直に受け入れながらも、尚その「老い」に抗いながら生きようとする姿は、観ていても素敵です。
何歳(いくつ)になっても、評論子も、そのようにありたいものです。

talkie