劇場公開日 2022年1月14日

  • 予告編を見る

「老いてなお、新た人生に歩みだす物語にチャレンジしたイーストウッド翁」クライ・マッチョ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0老いてなお、新た人生に歩みだす物語にチャレンジしたイーストウッド翁

2022年2月6日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

偏屈爺さんと少年の交流を描いて、『グラン・トリノ』の姉妹編とでも言うべき映画。
今度は切り口を変え、新しい人生へ踏み出すハッピーエンド物語だ。

恩人に頼まれ、その息子をメキシコに迎えに行くマイク老人(クリント・イーストウッド)は、かつてロデオで名を馳せたカウボーイであり名調教師だった。
老人マイクと少年ラフォのロードムービー調の逃走劇は、空っ風が砂塵を巻き上げるメキシコを舞台にしているだけに、現代の西部劇風でもあった。
単身メキシコに入ったマイクの車に馬の群が並走するシーンが美しい。

時は1979年。
メキシコの田舎町の風景やそこに暮らす人々の身なりでは判りづらいが、車の型や携帯電話を持っていないことなどで時代性を感じる。
原作の時代背景そのままのようだ。
本作の最初のオファーは40年以上前にあったそうで、当時のイーストウッドは若すぎるという理由で辞退したらしい。
シュワルツェネッガーが政治家から役者に復帰する時の1作目の候補にも上がったというから、面白い。
主人公マイクの年齢設定は定かではないが、さすがに90歳ではないと思う。ロデオスターから転落したのはケガが原因であって、加齢ではない。調教師として雇われていたにもかかわらず、勤務態度がオーナーの反感を買って解雇されるのだから、60歳か高くても70歳といったところではないか。
いくら名うてのカウボーイだったとはいえ、90歳を越えた年寄に頼む仕事ではないから、60代だと考えた方が物語に入り易い。
とはいえイーストウッドは背中が丸まっていて、歩く姿はヨボヨボだ。それでも、ちょっとしたアクションだけでなくロマンスまで演じるのだから凄い!

ラフォ少年を演じたエドゥアルド・ミネット君が良い。
この旅は、内気な少年に老人が男の生きざまを教えるようなものではない。
ラフォはそれなりに逞しく、意思の強い自立した少年だ。
母親のもとを離れ、雄鶏「マッチョ」を相棒に闘鶏で生計を立てている。
ラフォがマイクと行動を共にするのは、父親が住むアメリカへの憧れと、現状から抜け出すチャンスを見いだしたからだ。
かつてのマッチョであるイーストウッド翁を相手に見事な掛け合いを演じ、大人びたところと子供っぽさを上手く見せている。
映画は初めてだとのこと。

この凸凹コンビが逃げ込んだ小さな町で、偏屈爺さんとスレた少年は住民たちと交流し、居酒屋の未亡人と彼女の孫娘たちとの疑似家族を体験しながら、お互いを認め合う。
ラフォはマイクの息子でも孫でもない。が、馬の扱いを教えるにつけ、筋のいいラフォを見てマイクの中に親心が芽生えたのではないだろうか。
少年を待っている父親の真の目的を知ったマイクは、もしかしたら父親のもとに送り届けるよりもこの地で未亡人家族たちと共に生活する方が良いと、思いはしなかったか。
マイクは逡巡したものの、ラフォに真実を告げる。そして、彼の未来は彼自身に選択させたのだ。
マイクは言う。「トシを取って自分の無知に気づく…」
人間は経験を重ねることで知った気になる。たが、初めて見るもの、初めて会う人からは何歳になっても学ぶことばかりだ。マイクはラフォ少年から何かを学んだことだろう。

ラフォが相棒のマッチョをマイクに託したのはなぜか。
マイクは「明日には食ってしまうぞ」と冗談を言う。
本当は、ラフォはマイクと一緒にいたかったのかもしれない。が、彼は居心地の良さに留まるよりも未知の世界での可能性にチャレンジすることを選び、わずか13年の過去と決別したのだろう。
それは、マイクの親心に応えたことでもある。

kazz
サプライズさんのコメント
2022年2月8日

うわぁぁぁあ!こと細かくありがとうございます…!!!
参考にさせていただきます!!

サプライズ
グレシャムの法則さんのコメント
2022年2月8日

おっしゃる通りで、これだけ好き勝手に映画とか見に行ってても、そこへのプレッシャーは一切ないので、トータルでは敵わないというか感謝しかないですね。

グレシャムの法則
グレシャムの法則さんのコメント
2022年2月7日

今晩は❗️
私はコロナ禍でテレワークが増えたと同時に掃除(自分の部屋)、洗濯、アイロン掛け(自分のワイシャツ)はマスターしたぞ❗️と思ってたら、嫁からは『自分の分くらい最低だからね』と高いハードルを設定され、まだ及第点に達してません😂

グレシャムの法則
NOBUさんのコメント
2022年2月7日

今晩は。
 コメント有難うございます。
 今作は、私は、最初からマイク=クリント・イーストウッドとして観ていました。
 今から、40年後には彼の様な台詞が気障に感じさせずに言える男になりたいモノであるなあ・・、と思いながら観ていましたよ。
 格好良き、大先達だと思っています。では。

NOBU
サプライズさんのコメント
2022年2月7日

コメントありがとうございます!
この映画を見て人間ドラマが好きな私は、人の温かさを描くのが上手いイーストウッドが手掛けた他の作品も好きだろうなぁと思いました。
ただ、何から見始めると良いのか…。オススメして頂けると幸いです。

サプライズ
たなかなかなかさんのコメント
2022年2月7日

kazzさん、畏れ多いお言葉ありがとうございます😭

90歳を越えてなお、映画道を突き進むイーストウッドには尊敬の念しかありません(`_´)ゞ

たなかなかなか
満塁本塁打さんのコメント
2022年2月7日

コメントありがとうございました😃。確かに山田康雄、強い豊かなアメリカを子供の私に叩き込んでくれました。(子供にはベトナムの泥沼の結果。米国自動車産業の斜陽化)なんてわかりませんですから。まさにアメリカに憧れました。どうもありがとうございました😊😭。

満塁本塁打
kossyさんのコメント
2022年2月7日

kazzさん、コメントありがとうございます。
細かな裏話も参考になりました。
歳を重ねるとこういう映画が心に沁みてきちゃいます。
まだまだ仕事は引退しませんけどね・・・

kossy