劇場公開日 2022年10月14日

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「映画「スペンサーダイアナの決意」は映画「ガス燈」へのオマージュだ。」スペンサー ダイアナの決意 グリーンリーフさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画「スペンサーダイアナの決意」は映画「ガス燈」へのオマージュだ。

2023年2月21日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

映画「スペンサー」を見た時私は直ぐにある映画を思い出した。1944年に制作されたアメリカの「ガス燈」という映画だ。イングリッド・バーグマンが主演して、アカデミー賞主演女優賞を取った。サスペンス・スリラーの傑作で、フィルムノワールとしても格調の高い映画だ。この「ガス燈」と「スペンサー」には同じようなシチュエーションが使われていると思った。

 正式な心理学用語に「ガスライティング」という言葉がある。この「ガス燈」という映画が元になって作られた言葉だ。どのようなことを指すかというと、心理的虐待の一種で、故意に誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、正気、もしくは自身の認識を疑わせるように仕向ける手法の事だ。

 例を挙げれば、嫌がらせの事実を加害者が何もなかったかのように不定して見せたり、被害者を混乱させるために、モノや行動で脅して見せたりすることだ。映画「スペンサー」の中では明らかにこの手法が使われている。例えば、真珠の首飾り、体重計、アン・ブーリンの本、そして極めつけは、チャールズ皇太子による、彼女の疑念への全面不定だ。これらの事物が、ダイアナの混乱を増大させ、取り返しのつかないところへと追い込んでいく。

 2本の映画は、時代も内容も全く違う映画なのだが、主人公の味わう混乱と恐れ、自己不信は全く同じと思えるほどに良く似ている。ただ理解しなければいけないのは、このことでわかるように映画「スペンサー」はあくまでも、ドキュメントではなく創作であり、初めにクレジットされていたように、悲劇を伴う寓話、おとぎ話として理解すべきだと思う。そうでないと映画の中に潜まされた様々な比喩やメタファーを、あたかも真実であるように誤解してしまうのだ。あえて言うならば、真実と虚構の境目を不明瞭にすることによって、逆に真実を浮かび上がらせようとしているのかも知れない。とにかくそれなりの見識を持ってみるべき映画なのだ。

グリーンリーフ