劇場公開日 2021年7月16日

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「「サマーウォーズ」のような「田舎町での人間模様」×「インターネット空間の仮想世界」に「美女と野獣」×「歌」で構築した細田守監督の意欲的な最新作。」竜とそばかすの姫 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「サマーウォーズ」のような「田舎町での人間模様」×「インターネット空間の仮想世界」に「美女と野獣」×「歌」で構築した細田守監督の意欲的な最新作。

2021年7月16日
PCから投稿

細田守監督の代表作の一つに2009年の「サマーウォーズ」がありますが、今見ると「わずか10年くらい前なのに、スマホですらなくガラケーだったのか」と現実世界の早さに驚かされます。
「サマーウォーズ」の時は、当時より少し先の未来を描いていましたが、本作でも今より少し先の世界観を描き出して進化しています。
そして、不朽の名作「美女と野獣」をモチーフに使い、主人公の「すず」のインターネット空間の仮想世界での名前は「ベル」。そして、野獣として謎の竜が登場します。
ディズニー映画の「美女と野獣」の世界観を仮想世界「U」で表現され、ベルと竜の2人の関係性が物語の大きなカギとなっています。
さらに、現実の世界では、インターネットでブレイクするアーティストが出る時代なので、歌にも力を入れるなど、新しい試みもみられます。
声優陣は、スタジオジブリ作品のように芸能人が多いのですが、主人公の「すず」役には、中村佳穂という知る人ぞ知るようなアーティストを起用しています。
最初の学校のシーンで親友と話すあたりは、少し素人っぽい話し方が出てきますが、設定も「人間関係が不得意で、心を閉ざす女子高生」なので、案外、これもリアルなのかもしれません。
ちなみに、その「すず」の親友役には音楽ユニット「YOASOBI」のボーカル幾田りらが起用されていますが、こちらは本職並みの上手さがありました。
母と一緒に歌うのが大好きだったのに、母の死をきっかけに歌うことができなくなった「すず」が「ベル」として歌うシーンは、さすがの歌唱力でした。
これらのような新しい才能を開花させている点でも本作の試みは成功しています。
作画の面でも「U」での世界や、現実世界も含めて非常に進化していました。
また、作品全体の雰囲気も良く、本作はレベルの高い力作と言えるでしょう。
ただ、強いて言うと、「アカウント50億!の中から1つを見つけ出す」という非常に重要なミッションが本作の肝になるわけですが、この高すぎる設定をクリアするには、少し拍子抜けしてしまう点など、もう少し脚本が精査されていたら、より良かったとも思います。
このように所々もう少し練った脚本であれば、と思った面はありましたが、歌は良いですし、高知県の舞台も良いですし、何より人間模様が魅力的に描かれています。
なのでエンターテインメント作品としては、とても出来は良いと思います。

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細野真宏