劇場公開日 2021年2月27日

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「生活が描かれている」夏時間 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5生活が描かれている

2021年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

90年生まれのユン・ダンビ監督の長編デビュー作だが、とても心地よい時間と空間の作れる優秀な監督だと思った。少年と少女の姉弟と父が、夏の間、祖父の家に居候することになる。頑固な祖父とそりの合わない思春期の姉は恋人がいるが、なかなか会えない。さらに家に叔母も転がり込んできて、奇妙な家族生活が始まる。居心地は決して良くはないが、絶対にここが自分の居場所ではないと言い切れるほどに嫌なわけでもないという、奇妙な宙ぶらりんな感覚が全編に溢れている。この気持ちはなんと名前をつけたらいいだろうと戸惑う感情が描かれているのが本作の素晴らしい点だと思う。
特別なことが起きるわけではないが、なぜか匂いとともにずっと忘れない記憶となるような、そんな特別な雰囲気がある。古い家屋の匂い、庭の菜園の匂い、アスファルトの匂い、夏の汗の匂いなどなど、匂いが見える映画だった。
主義主張よりも生活の実態を細かく描く作品は好感が持てる。人の基本はやっぱり生活だ。

杉本穂高