劇場公開日 2021年5月28日

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「母子3組の幸福な日常が、次第に暗く重く変調する」明日の食卓 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0母子3組の幸福な日常が、次第に暗く重く変調する

2021年5月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

重いテーマを度々扱ってきた瀬々敬久監督のフィルモグラフィの中でも、これは群を抜いてヘビーなヒューマンサスペンスだ。菅野美穂がカメラマンの夫を持つフリーライターを、高畑充希がパートやバイトを掛け持ちして子育てするシングルマザーを、尾野真千子が裕福な義理親の実家の隣に建てた一軒家で遠距離通勤の夫と暮らす専業主婦をそれぞれ演じる。3人はいずれも石橋ユウという名の10歳の息子を育てている。仕事の苦労や姑への気遣いはあっても、息子に愛情を注いで幸せそうに見えた彼女たちの日常はやがて、育児に非協力的な夫の態度や、子供が学校で起こした問題などをきっかけに、徐々に壊れていく。

「夫は仕事、妻は家事育児」という古い価値観、育児ノイローゼ、シングルマザーの困窮、家庭内暴力など、本作で扱われる問題が今の日本で当たり前に存在するという悲しい現実。椰月美智子が原作の同名小説で投げかけたテーマを、菅野、高畑、尾野が渾身の演技で血肉化した。瀬々監督も3家族のストーリーラインを手際よく編み上げ、一体感のある群像劇として結実させている。

本作より1週間早く公開された尾野真千子主演作「茜色に焼かれて」もやはりシングルマザーと息子の物語であり、この共時性も興味深い。「茜色に~」がコロナの時代を描いているのに対し、「明日の食卓」の原作は2016年発表なので当然コロナ前の話なのだが、この国で数十年のスパンで続いている少子高齢化、経済の衰退、ジェンダー平等の意識の高まりと現実の乖離といった互いに絡み合う大きな問題が、両作品の背景に共通している。少し前の報道でも、世界の男女平等ランキングで日本は153カ国中の120位という猛省すべき事実が突きつけられた。日本の男性は女性に対し、とりわけ母という存在に対し感謝と敬意の念をもっと強めなければならないし、女性の立場向上にできる限り協力すべきだと本作を観て思う人が増えることを願う。

高森 郁哉