劇場公開日 2021年6月11日

「美しく残酷で、恐怖と無垢が隣り合った作品。」キャラクター カガチさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5美しく残酷で、恐怖と無垢が隣り合った作品。

2021年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

超人気バンド「SEKAI NO OWARI」メインボーカル「Fukase」の俳優デビュー作。
主演は菅田将暉、だからこそ少し不安な気持ちがあった。
と言うのも、菅田将暉と言う俳優に文句があるわけでは無く、彼の全力のお芝居は、演技が全て「菅田将暉」になってしまう。
逆を言えば、寡黙な役…例えば俳優デビューの「仮面ライダーW」のフィリップなどは、ある意味普段から感嘆の動きが無く、はまり役と言えた。
良い意味で言うと、キャラにハマれば凄い個性的な人物が出来上がるが、ハマらなければとことん普段の菅田将暉になる。
演技が…表現力が…などと野暮なことを言うつもりは無いが、今作もそうなってしまうのではないか…と言う一抹の不安がどこかにあったが…

いざ蓋を開けてみれば、見事にハマっていた。
映画本編の2時間、見ていても全然苦じゃない演技、セリフ回し。
本作の主人公は、良い人だからこそ「良い」部分に悩みを抱えた漫画家で、全てを悟って諦めたような、感情が常に平行線(喜怒哀楽が無いわけじゃないが、普通の人よりは起伏が無い)の様な役柄なので、いい具合に普段の「菅田将暉」を隠せていた。

そして更に掘り下げたいのは、Fukaseの「殺人鬼」と言うキャラクター。
初めての演技、ハードルの高い非現実的な「殺人鬼」と言う設定にも関わらず、彼は見事なまでに役になりきり、いい意味での「不快感」を観客に与えた。
人によって感じ方が変わるだろうが、彼の演じた今作の殺人鬼は、「純粋無垢だからこそ恐ろしい、子供の様な殺人鬼」と言う感じがして、大人の精神では測り切れない心の闇が垣間見えた、とても恐ろしい人物だった。

最後に、本作の根幹「事件の全てを語らない」と言う点だ。
映画やドラマにおいて、主人公や警察が事件を解決すると、まず間違いなく後日談や犯人の生い立ち、事件の経緯が語られるが、本作はそれがほとんどない。
見終わった実直な感想としては、「彼"ら"はいったい何だったのか?」。
事件の顛末の理解を観客に投げている訳では無いが、どんな意味にもとれる所謂「あとはご想像にエンド」でもない、だからと言って続編は出なさそうな…何とも言えない、いい意味で後を濁した終わり方には感心した。

最終的な評価だが、昨今の日本映画の中でも群を抜いて面白い作品と言える。
殺人と言う不自然な情景を描いているにも関わらず、登場人物みんながあまりにも自然な行動をするので、どこでどう転んで事件が進展するかわからない様は、見ていて凄いハラハラしたし、Fukaseのビジュアルと美声に反する残虐な言動には心を震わされた。

二つだけ残念な点を挙げるとするならば、中途半端な"残酷描写"のせいで年齢制限をくらっているところと、雨の日の音声の違和感だ。

グロテスクに耐性がある人にとってはなんてことの無い殺人描写だが、そういうシーンがある事で見る人を選んでいるのも事実なので、"そう言うシーンを"やるなら徹底的に描くか、描けないのなら間接的な描写にするか、どっちかにして欲しかった。

2つめの雨の日の違和感は、本作序盤に描かれた雨の日の事件現場シーンにおいて、登場人物の口の動きと声にズレを感じたのだ。
最初は、Fukaseの声があまりに美声すぎて、そもそもFukaseの喋り方のギャップなのかな…と思ったが、後に出てくる中村獅童と小栗旬の声にも違和感を感じたので、恐らく環境音や雨音が入らない為に行われたセリフの別撮りのせいだろうが、全編通してもその点だけが違和感があった。

カガチ