劇場公開日 2021年8月13日

「まさに短編小説のような映画。」僕たちは変わらない朝を迎える caduceusさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0まさに短編小説のような映画。

2021年8月22日
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尺も51分と短く、短編小説のような映画だ。
別れた男女が、離れず、距離を縮めることもなく、川面の上の、木の葉のように流れていく。
主人公の藤井薫は、昔付き合っていた寧々から「私、結婚するの。」と告げられる。
「どう思った?」という寧々の問いに、藤井薫は「おめでとう…。」と祝福の言葉を伝える。
タクシーに乗り、窓から顔をのぞかせる寧々を、藤井薫はただ見送る。
そして、ラストシーンは、藤井薫の“やり直したい”寧々との最後の会話が描かれる。
藤井薫と寧々は一緒にタクシーに乗り、夜明けの海に到着する。
「潮の香りがする。私、刺身食べて、日本酒飲みたい。」
「そうだな。よく日本酒飲んだな。」
…と、二人の他愛も無い会話が続く。
寧々が「私、結婚するの。」と言う。
藤井薫は「おめでとう…。」と返す。
寧々が別れた理由を言う。
「同じ業界だから、私もいろいろ苦しかったの。」
藤井薫は待たせていたタクシーに、寧々を乗せる。
「じゃあ…。」
「えっ、乗らないの?」
「俺は乗らない。」
そして、藤井薫はタクシーを見送り歩きだす。
ラストシーンは、藤井薫の“希望”だ。
特に劇的なシーンもなく、物語は終わっていく。
川面の上の、木の葉は別々の方向へと流れ、いずこへともなく消えていく。
明日の朝はどんな朝だろうか…。彼女のことは記憶の中に残り続ける。
そして、彼女の言葉が、つい昨日のことのように蘇ってくる。
「あなたのこと、運命の人だと思ってた…。」
戻って来ることのない時間の中を、記憶はさまよい続けるのだろうか。
流れ去った木の葉のゆくえは、誰にもわからない。

caduceus