劇場公開日 2021年1月29日

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「出ずっぱりの親父。親父の親父。出てこない親父」ヤクザと家族 The Family つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0出ずっぱりの親父。親父の親父。出てこない親父

2023年11月16日
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鑑賞方法:VOD

どこかで読んだか聞いたかした話によると暴力団員になるのは居場所がないからだという。受け入れてくれるところがそこしかないというわけだ。
自分を愛してくれる人、愛してくれる場所がそこにしかない。つまり家や家族を求める行動といえる。だから親父や兄貴と呼び合うのだろう。
映画的に言うなら疑似家族ものの側面がある。

親と兄弟のいる柴咲組にあって舘ひろし演じる柴咲はいい人を作れという。子が親元を離れ新しい家族を形成する巣立ちを促している。
疑似家族だけではなく血の繋がった家族へと物語は繋がっていく。
従来の家族、新しい価値観の家族、と広がりがあるところがいい。
暴力団対策法という節目をまたぐ意味合いもあるが年代を三つに分けることで山本にいくつもの家族の形を体験させる物語構成は素晴らしい。

時代は流れ、居場所を求める者たちはもがく。
絶対の居場所であった組にいられなくなったからだ。
もう何も掴めなくなったときに残そうとする爪痕は破滅的で切ない。
疑似家族から時を経て最後は親と子の物語に着地するラストシークエンスは非常に泣ける。
年代が飛ぶことで余白が自然と生まれ、これまで積み上げできたものが膨大になる。それが繋がり爆発するのだ。泣けるに決まってる。

とにかく面白かった。内容も良かったのだけれど、キャストが特にいい。
舘ひろしさんが貫禄不足みたいに書いてる方もいるけど、貫禄不足でいいんだな。腹黒そうじゃないところが重要なんだ。つまり優しそうに見えるのが大事。柴咲とはそういう男でなければ物語が成立しない。
そして主演の綾野剛は、相変わらずうまい。
物語のほとんどを山本の視点で追うわけで、要は出ずっぱりなのだが見事に娯楽性を牽引したと思う。

あとはエンディングを締めた市原隼人と磯村勇斗は見応えあったね。
畳み掛けるような出来事の中で魅せた演技の応酬は嫌でもしびれる。
特に磯村勇斗の最後の間は、なんていうかこの作品の全部があの間に乗っかってるような、凝縮した瞬間で、驚きに似た衝撃がある。そう、最初から最後まで「親父」の話しかしてなかったと気付いてしまったのだ。タイトルに書いた3人の「親父」

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つとみ