劇場公開日 2020年11月20日

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「2020年の社会を捉えた素晴らしい作品」滑走路 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.52020年の社会を捉えた素晴らしい作品

2020年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

コロナウイルス感染拡大による経済不安の中、自殺者が急増したというニュースが報じられている。社会の貧しさは弱い人の生活を蝕み、そうした人々は声を上げることもないままにいなくなってしまう。萩原慎一郎の残した歌は、そんな声を届けられなかった人たちの声を代弁していた。
非正規雇用者の自殺、無茶な要求につぶされそうになる若手官僚、中学生のいじめ、夫との関係と将来のキャリアに不安を抱える女性。どの物語も現代社会にはあふれている。それらが別々に紡がれ、最終的には一つの物語として集約されていく。現代社会の抱える諸問題は、根っこの部分で深くつながっているのだということを説得力ある構成で描き出している。ひとつの事象の善と悪を見つめるのではなく、背後にある構造的な問題に触れようとしているのが本作の素晴らしさ。2020年に本作が公開されたのは、偶然とは思えないほどに今を捉えている作品だ。
厚労省の若手官僚を演じる浅香航大が素晴らしい。状況と感情に引き裂かれた苦悩を見事に体現していた。

杉本穂高