劇場公開日 2020年8月28日

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「吉沢亮が魅せるリアルな青春」青くて痛くて脆い みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5吉沢亮が魅せるリアルな青春

2022年10月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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本作は、キミスイの住野よる原作、キングダムの吉沢亮主演ということで、期待して鑑賞したが、意外な作品だった。心理描写が多く分かり易い作品ではなかった。本作で描かれているのは、キミスイのようなピュアーな青春物語ではなく、リアル、ダーク、赤裸々な青春サスペンスだった。

本作の主人公は、大学1年生の田端楓(吉沢亮)。彼は、人を傷つけることを異常に恐れ、人付き合いを遠ざけていた。ある日、彼は、授業で、形振り構わず理想論を信じ、周りから浮いていた同学年の秋好寿乃(杉咲花)と出会う。孤独な二人は、秋好の世界を救済するという壮大な目標を目指して秘密結社・モアイを結成し、二人だけで活動していくが、次第に、モアイは参加メンバーが増え、当初の目標とはかけ離れた組織に変貌していく。楓は、そんなモアイに失望し潰そうと画策していく・・・。

序盤は、大学に入学した男女のピュアーな青春物語だったが、中盤以降、作風が一変して、楓の復讐劇に変貌していく。リアルな青春物語になっていく。吉沢亮がキングダムなどで確立した役者としてのイメージをかなぐり捨てて、不器用で鬱屈した青年を演じ切っている。杉咲花は、旺盛な行動力で理想を追い求める寿乃を不思議な魅力で巧演している。

ラストシーンでの楓の台詞が本作のメッセージを凝縮している。強く頷くことができる。
青春時代は、理想を追い求める時であり、現実を知る時でもある。理想と現実の狭間で、気持ちが揺れ動く時である。色々な事に衝突し傷つく時である。それでもなお、傷つくことを恐れずに、挑んでいくことで次が見える時である。本作は、そんな青春時代のリアルなプロセスを、楓の心情を追うことで綴っていく。

青春時代の渦中にある人より、青春時代を俯瞰できる年齢になった人の方が心に響く作品だろう。二度と戻らない、あの時の、青さ、痛さ、脆さに、今の自分を重ねて、人生における青春時代の意味を再確認できる作品である。

みかずき